それでもまだイマイチ落ち着きが取り戻せてないようなので、三ヶ島沙樹が代わりに話し掛けてきた。
「はじめまして、貴女は私達の事を知っているみたいだけど、私達は貴女の事を知らないわ」
「そりゃ当然でしょう」
知ってたら知ってたで折原臨也を殴らなくてはならないからね。
「教えてほしいな……貴女の名前」
「……雪華」
「雪華……か。名字は?」
もう落ち着いたのか、紀田正臣が話に入ってきた。
というか、その質問。平和島静雄と折原臨也の喧嘩に巻き込まれて以来、よく聞かれるな……。何故、そんなに知りたがるのだろう?
「教えません」
「なんでだ?」
「秘密です」
「……そう、か」
歯切れが悪そうに、紀田正臣が呟いた。
一方、三ヶ島沙樹は辺りをキョロキョロと見回してから私に問い掛けた。
「そういえば、臨也さんは?」
「折原臨也なら、別の用事で矢霧波江と一緒に出掛けましたよ」
「はぁ!?」
紀田正臣が驚いた顔でまたもや素っ頓狂な声を出した。
「この紙に報告した事書け、みたいな事言ってた」
「ふざけやがって……」
「……?」
もしかして、折原臨也と紀田正臣って仲悪いのかな……?
「もう、落ち着きなって」
「……悪ィな、沙樹。雪華さん、お茶貰ってもいいか?」
「……いいけど。その辺に座ってて」
人から『さん』付けで呼ばれるのって……少し違和感があるな……。
そんなことを思いながら、手早く紅茶を煎れる。適当にお菓子を付けて、リビングに持って行く。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「いただくね」
それぞれ紅茶を啜る。私もソファに座り、紅茶を飲んだ。
「……おいしいっすね」
「うん、そうだね。すごくおいしい」
「ん……そう」
普通に煎れただけ、なんだけどなぁ。
「あっ、報告書なら俺が書きますよ。ペンとその紙を貸してもらってもいいっすか?」
「ん。ちょっと待ってて」
私は折原臨也の机から適当にボールペンを取ると、紀田正臣に紙と共に渡した。