「あっ……!」
カッターと鋏が宙に舞う。折原臨也によって飛ばされたのだ。
やっぱ、無理だったか……。私の中の『罪歌』はやる気ないみたいだし、ここまでかな。
「どうしたの?威勢の割にはもうおしまい?」
「うん、そうみたい」
「えっ……?」
拍子抜けたような声を出した。まぁ、そりゃ驚くよね。
「ほんとはさ、貴方を操ろうと思ったんだけど……あの人はそこまで望んでないみたいだから」
「ふぅん……。あの人って誰だい?」
「秘密」
「そう。じゃあ後で調べるとするよ」
「一応、忠告しといてあげる。あの人……私のバックにいる人は調べない方が賢明だよ?」
「へぇ。それまたどうして?」
「……狙われるから」
「俺の事、心配してくれてるってこと?」
これまでの私なら、今の台詞に全力で無表情で否定するところだろう。でも相手があの人で、状況が状況だからなぁ。
「……そう、かもね」
「えっ……?」
折原臨也はポカンとした顔でこちらを見ている。……って、そんなに珍しいのか?
「とにかく!私の中には『罪歌』があるってことと、今回のクレイジーリッパーは私が命令した。貴方は私にどうして欲しいわけ?」
正直、彼が『自首しろ』なんて言うと思えないけど……。
折原臨也は私に敵意がなくなったことを判断し、ナイフをしまった。そして手を顎に添えしばらく悩んでいると、唐突に言い出した。
「俺のところに戻っておいで」
「……は?」
今度はこちらがキョトンとする番だった。
おかしいでしょ。今回の事件の首謀者にその台詞言うの……。
「だって、君はもう罪歌の力を使って誰かを襲うことも、君自身が罪歌を使うことないんでしょ?」
「うーん……それは気分次第、だなぁ」
私じゃなくて、『罪歌』のだけど。
「なら俺ん家に戻っておいでよ。色々積もる話もあるしね」
「…………」
本来なら、ここであの人に指示を出してもらうところだけど……ま、いっか。あの人もあの人で忙しそうだし。
「わかった。仕方なく、戻ってあげる」
「あれ?いつもの雪華に戻った?」
「よく考えたら財布を置きっぱなしにしてたし」
「……あぁ、そうだね」
「さっさと帰るよ」
「はいはい」
折原臨也と共に帰路についた。
夕闇はいつの間にか完全な闇となっていた。でもその闇の中で、星はより一層強く光を放っていた。
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