「ありがとう、静雄。貴方といた時間は結構楽しかったよ。全部終わった時、また寿司奢ってね。それじゃ!」
「お、おい、雪華……!」
平和島静雄が何かを言う前に、私は走って逃げた。上手く人混みを掻き分けて、走る。
それなりに走った所で後ろを見てみる。……うん、いない。追い掛けられなかった。よかったよかった。
それにしても我ながら面白い台詞を吐いたものだ。『ありがとう』、か……。久しぶりに言ったな。今度言うのは10年後かな。
さて……これだけ暴れちゃったら、あの人に怒られちゃうかな。私の中の『罪歌』は相変わらず静かだし……。とりあえず、実験は成功したってあの人に電話しよう。
ポケットから携帯を取り出した。アドレス帳からあの人の番号を呼び出そうとした、その時だった。
[着信中:折原臨也]
折原臨也から電話がきた。ってことは……。
人が少ない場所に行き、通話ボタンを押した。電話越しから久しぶりに聞く声が響いた。
『やぁ、もしもし?俺だよ。言わなくてもわかるよね?君なら』
「…………」
わかるも何も、真っ向から電話かけてきてるじゃん……。
『廃ビル。俺今屋上に立っているから、わかると思うけど……もちろん、来てくれるよね?』
上を見上げると、廃ビルの上に人影が見えた。……全く、運命の悪戯って恐ろしいね。
「……わかった」
『じゃあ、またね』
そう言うと、折原臨也から電話を切った。
……こりゃ行かないとかぁ。どうやら私の正体を突き止めちゃったみたいだし。仕方ないな。
私は廃ビルの入口を探し始めた。
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