平和島静雄の手をひいて、私は走り続けた。人通りの多い所に出ると走るのをやめ、歩いた。
「ここまで来れば、大丈夫でしょ」
「そう、だな……」
「……思ったより、この辺はあまり被害ないみたいだね」
あの光景は幻だったかのように、通りにはいつもと変わらない賑やかさがあった。
「おい、雪華」
「何?」
「さっき……目が赤かったよな?」
「…………」
やっぱり、見られたか。
女と中年サラリーマンが追ってこない訳。それはごくごく簡単だった。
私が彼女達の『罪歌』の『母』だったから。私から指示があればそれに従う。たったそれだけ。
『罪歌』の力を使う時、必ず目が赤くなる。その瞬間を平和島静雄に見られてしまったのだ。
恐らく、彼は『罪歌』の存在を知らない。今から教えるなんてこともない。知らない方が、きっと幸せだから。
「……うん。赤かったかもね。だって、私はあいつらと同じだから」
「どういう事だよ……」
怒気の篭った声。彼の怒りはどこから沸いているのかな?女に切られそうになったことか、何もせず逃げてきたことか……私のこの台詞からか。
ま、理由なんてどうでもいいんだけどね。
「どういう事、って言われてもなぁ……。説明は難しい。そして私は説明をする気はない」
「なんで、だよ……」
「もう、私を見かけても声をかけないでね」
「はぁ!?」
「多分、次に会う時、池袋は大きな混沌の中にある。きっと、それは私の蒔いた種もある。今度会ったら、きっと私は貴方に刃を向けていると思う。貴方も私を傷付けたくないでしょ?」
「意味わかんねぇよ!!」
「意味なんてわからなくていいよ。いつか、わかるから。これで、お別れだよ」
掴んでいた手を離す。平和島静雄と改めて向き合う。……なんだかんだで、良いにんげんだったなぁ。
まだイマイチ状況が理解できていないようだ。怒るところなのか、悲しむところなのか、どうしたらいいかわからないみたい。
そんな彼の状況をまるっきり無視して、私は最後の言葉を言った。
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