私の知らない『罪歌』……。どうして……?
頭がなかなか回らなかった。隣にいる竜ヶ峰君はキョトンとしていた。
……私の、せいだ。私が、ちゃんと罪歌を支配してなかったから……。
自己嫌悪に陥りそうになったとき、竜ヶ峰君が私を突いた。
「園原さん、見て!」
彼の指差す方――セルティさんと女の人を見てみる。女の人が包丁を振り下ろしていた。それに対しセルティさんは影から鎌を取り出して包丁を受け止めた。
それから激しい攻防が何度か繰り返された。
「セルティさん、大丈夫かな……?」
「大丈夫だと思います。でも、長くは持たないかもしれません……」
「そうだね……。なんかあの女の人、普通じゃないし……。……僕に、何が出来るだろう……」
「えっ?」
「こうして隠れてるだけって、良くない気がするんだ」
「でも、私達に出来る事ってあるんですか?」
「うーん……。一緒に戦えればいいんだけど……流石にそれは無理かな」
「…………」
……戦う、か。竜ヶ峰君がいなかったら、私は戦っていたのかな?
私は罪歌の存在を竜ヶ峰君や紀田君に知られたくなかった。
でも、紀田君を助けようとしたあの時――私達三人にどこか冷たい風をもたらしたあの日、お互い何も気にしなかった。二人がどんな人だろうと、私の大切な友達であることに変わりないって思った。
だからこそ、二人の前で罪歌を使う事に躊躇いなんてなかった。紀田君を、助けたかった。
じゃあ今は?セルティさんに頼りっぱなしなの?ここから見てるだけでいいの?得体の知れない『罪歌』を放っておくの?私には関係ない事なの?
それで、私は本当にいいの?
「…………竜ヶ峰君」
「園原さん、どうしたの?」
「少しだけ、目を瞑ってくれませんか?」
「えっ……?どうして?」
「この状況を、変えられるかも、しれないから……」
断られるかもしれない。それでも、何か私に出来る事をしたかった。少しの間、竜ヶ峰君は思い詰めるような顔をしていた。そして、静かにその口を開いた。
「……うん、わかった。気をつけてね」
そう言うと竜ヶ峰君はゆっくりと瞼を閉じた。
「ありがとう……」
私は立ち上がると、左の掌からひょっこり顔を出している罪歌を右手で引きずり出した。
もう、私のせいで誰かが傷付くのを見たくないから……。
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