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お返し。×3(2011バレンタイン不源)
「不動、そういえば、今日はバレンタインデーだったな」

何の気なしに呟いてみた(つもりだった)が、不動の眉毛がピクピクするのを見て、あ、やばいと思った。

「…っ…!」

何かを叫ぼうとしたようだが、生憎今俺たちは住宅街を歩いていて、周りに人は見当たらないにしても、大声を出せるような状況ではなかった。
何とか抑えた不動はその分大きく、ため息をつく。
怒りと呆れをミックスした感じで、ちょっと怖い。

「ふど」
「お前は、男か」

謝ろうとする俺の台詞を遮って、不動が聞いてきた。
…そんなこと、とっくのとうに知っていると思っていた。
少し面食らいつつ、俺は
「ああ…そうだが…」
と答える。

「…一応言っておくけど、俺はお前が男だってこと知ってるから」

…知っているなら何故聞いたのだろう。
そんな俺の表情を読み取ってか、不動はイライラとしたように

「だから!…男でバレンタインを忘れるやつなんているはずねぇだろ!」

と小さい声で叫んだ。

小さい声で叫べるなんて凄いなぁと思いつつ、
「ああ…そうだな」
と言った。

不動はまた眉毛をピクピクさせて
「そうだな、じゃねえよ…さっきお前、いかにも今思い出しましたみたいな顔しやがったじゃねえか!」

不動はそう吐き出してから、顔をぷいと背けた。
拗ねてしまった、らしい。


「不動、すまん」
「…」
「本当は今日がバレンタインデーだってこと、昨日から知っていた。…いや、正直に言うと二週間くらい前から知っていた」
「…」
「ずっと前から、不動はチョコが好きなのかクッキーが好きなのか、チョコはチョコでも生チョコが良いのか普通のチョコが良いのか、チョコの味はビターが良いのかミルクが良いのかホワイトが良いのか、とか考えていたんだ」
「…」
「お前に気に入って貰える様なチョコが作れるか不安になったり、でも何となくウキウキしたりしてな。何て言ったって、俺はバレンタインデーにチョコを貰う事はあっても渡す側になったことは一度も無かったんだから」
「…」

「すまん、不動。お前の為に作ったから、食べてほしい」


青と白のストライプに水色のリボンという出で立ちのそれを不動に差し出す。

どきどき、という心臓の音が不動に聞こえてしまうのではと思った。
顔がじわじわと熱くなってきて逃げ出したくなった。

不動は俺の顔をちらりと見てから差し出されたそれを見て、そして再度俺の顔を見た。
さっきよりも長くじーっと見るもんだから俺はいたたまれない気分になった。

「…すまん」
「…何で謝るんだ」
「怒ってるか?」
「…怒ってねえよ」

「…これ、お前の手作りなのか」
「一応。ビターチョコでトリュフを作ってみた」
「…」

駄目だったか?と尋ねると、不動はああもう全くこいつは!とイライラしたように呟いた。

「駄目じゃ、ねえよ!」
「…本当か?」
「嘘つくわけねえだろばか!」
「そうか…良かった」

凄くほっとした。
駄目じゃねえよ、という不動の言葉が胸の中にじんわりと広がってくる。


「…それで」
「へ?」

もうバレンタインデーというイベントはこれで終わりだと思っていた俺は、間抜けな声を出してしまった。
不動的にはまだ終わっていなかったらしい。

「何か言う事ないのかよ」

そっぽを向いた不動の表情は伺えなかった。
今不動が求めている言葉。
正解は何なのだろう、と考えを巡らせる。

「…あ、」
もしかして。

「不動、俺はお前の事が」

不動がこっちを向いた。
さっきと同じようにじっと見つめられて、緊張が高まる。

「お前の事が好きだ」

言葉にした瞬間、身体全体が一気に熱を持った。
不動はバカ、と呟いたがその顔がほのかに赤く染まっている。
どうやら、正解したらしい。


「不動」
「…何だよ」
「俺だけに言わせるのは酷いと思うんだが」
「…」
「不動は」


不動の手が近づいてくる。
冷たい手のひらが俺の頬を包んだと思ったら、ちゅっという小さな音と、柔らかな感触を唇に感じた。

顔が、オーバーヒートした。


不動はスタスタと前を歩いていってしまう。
その表情は見えない。

「いいのか、…こんなところで」
「誰もいねえよ」

…そうか、

「…誰もいないか」


俺はそう小さく呟いてから、不動の服の裾を小さく引っ張った。
そして彼が振り返った瞬間、




   
       



Fin


2011/2/14

Happy Valentine's Day


−−−−−−−−−−−−−


いつもより軽めに一人称で書いてみました。
不源初書きとか…まさかね…(遠い目)

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あきゅろす。
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