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いたずら(2010ハロウィン綱立)
「立向居くん」
声の方へ振り返ると、そこにはイナズマジャパンのエースストライカーの一人、吹雪士郎が立っていた。
ちょっといいかい?と手招きされ、他のメンバーから離れたグラウンドの隅っこへと移動。
何だろう、吹雪さんが俺を呼ぶなんてーー
全くもって身に覚えのない立向居は少し緊張しながら吹雪についていった。

「あの…何でしょうか?」
警戒心が通じたのだろう、立向居の緊張をほぐすように吹雪は柔らかく微笑んだ。
そしてーー
「君にこれをあげるよ」
そう言って、妙にふわふわしたカチューシャのような物を立向居に手渡したのだった。

「え、」
何ですかこれ!と言いたかったが、先輩の吹雪にそんな事は言えず。
しかしその一言で立向居の言わんとしている事は分かったらしい、吹雪は意外そうな表情を浮かべて
「ん?これは猫耳っていうんだよ」
「それくらい知ってます!」

先輩に向かって乱暴な言葉を吐いてしまった。
が、今の立向居には今のこの状況が理解出来ない。
そう、吹雪の言うとおり、先ほど手渡されたそれは俗に言う『猫耳カチューシャ』だったのだ。

「知っているんでしょ?なら良かった」
「良くないですよ!こ、これを一体どうしろって言うんですか?」
「だから、あげるって言っただろう?プレゼントだよ、プレゼント」

そう言って吹雪はにっこりと笑う。
意味が分からない。

「何で猫耳カチューシャを俺に…?」
「立向居くん、今日が何の日だか分かる?」

質問に質問で返される。
日にち感覚が鈍っている立向居は、今日は何月何日だったっけ…と考えた。

「えーっと…10月31日でしたよね」
確か、と言うと吹雪は頷いてその先を促す。


「ハロウィン…ですか?」
「正解」


「…」

だから猫耳カチューシャ?
話の方向性が全然掴めない。
いまだに混乱している立向居に吹雪はふぅ、とため息をついた。

「だから、ハロウィンだから、」
「はい」
「仮装とまではいかなくても猫耳カチューシャをつけて、」
「はい」
「『トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ』って言うんだよ」
「…誰に?」
「決まってるじゃないか!綱海くんだよ」
「!!」


いきなり出てきた[綱海]の名前に立向居は慌てふためいた。

「な、なんでそんなこと!」

綱海さんに猫耳姿を見せてそんな言葉を言うなんて、と想像するだけで顔が芯から熱くなるのが分かった。

「きっと喜ぶと思うよ、綱海くん」


「…」


綱海さんには何度もお世話になっていて、喜ばせてあげたい気持ちはある。

しかし自分のそんな姿を見せて彼が喜ぶなんてこと、あるだろうか?

「最近、綱海くん疲れているよね…」
「はい…最近波に乗れないってずっと嘆いてます」
「僕はそういう時こそ君の出番だと思うな。立向居くんなら彼を癒せるよ」

吹雪はもう一度にっこりと笑ってその白い猫耳カチューシャを立向居の手に押し付けた。

「やってみるだけの価値はあるよ」
そして足早に去っていったのであった。


…どうしよう。
宿舎の自分の部屋に帰ってからも、立向居は悩み続けていた。
綱海さんがこんな物を見て喜ぶとは思えないが、やってみるだけの価値はあるという吹雪の言葉が妙に重く感じた。
それに最近、綱海と二人きりで喋る機会が無く、正直寂しいとも思っていたのだ。

しかしそれでも、綱海の部屋へ行く勇気は無い。


どうしよう、と自分の部屋で悶々としていると部屋にノックが響く。

「立向居ー!いるかー?」


綱海さんの声だ、と認識すると心臓がぎゅっと掴まれたような息苦しさを感じた。
手にしていた猫耳カチューシャをベッドの下へと滑り込ませてから「ど、どうぞ!」と言った。

「綱海さん…」
「おう、久しぶりだな!」

毎日会ってはいるが、それはいつも誰かと一緒。二人きりで会うのが久しぶりなのだ。
彼が自分のことを考えてくれていた事が嬉しくて、立向居はうつむく。

「…なんでここに?」
「いやー、なんか吹雪が 立向居が呼んでた って言うからよ」


吹雪さん…!と立向居は呻いた。

「ん?どうした?」
「何でもないです…」

でも、吹雪のお陰で綱海が自分の部屋に来てくれたというのならそれは純粋に、


(…嬉しいかもしれない)


頬が熱くなるのを感じ、立向居は唇を噛み締める。
少し悔しいがこの頬を火照らせるのは彼だけで、その火照りは恥ずかしいけれど、幸せを感じさせてくれるのだ。

だから彼が喜ぶというのなら、

「綱海さん、ちょっと目瞑っててください」
「?いいけど…」

何なんだ?という綱海の問いには答えず、立向居はベッドの下へ手を伸ばす。



「もういいか?」
「…良いですよ」


そして目を開いた綱海の眼前には猫耳姿の立向居があった。


「た、立向居…?」
「綱海さん、今日は何の日ですか」
「…ハロウィン?」


「綱海さん」

「…トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃいたずらしちゃいますよ?」
顔を真っ赤にした猫耳姿の立向居を見て、彼に負けないくらい綱海の顔も朱に染まる。


「…っ…!」

言葉を無くした綱海に、立向居は不安そうに
「駄目…ですかね」
「バカ、」

似合ってるんだよ、と言う言葉と共に立向居の身体は綱海の胸の中へと収まった。


「綱海さん…」
こうして抱きすくめられるのはいつ振りだろうか。
秋の空気は冷たい、しかし綱海の身体はほんのり暖かかった。

「…相変わらず小さいな」
綱海は自分より一回りは小さい立向居の身体を感じ、背中を優しくさすった。

「…なぁ、立向居」
「…なんですか?」
「俺 菓子なんて持ってないけど?」



その言葉の言わんとしている事を理解し、立向居はうっと小さな声をあげて綱海の胸の中で俯いた。

「いたずら、していいぞ?」

にっ、と笑った彼からは先ほどの焦りは微塵も感じられない。

「〜っ…!」
少し睨んでも綱海はまったく動じない。
諦めるように小さくため息をついてから、立向居は彼の頬にそのふんわりとした柔らかな唇を当てた。

「どう」
どうですか、という立向居の台詞は奪い取られ、綱海は立向居の唇を彼自身の唇で塞ぐ。
そして唇の端を強く吸った。

「ん…!!」

立向居の声が漏れたところで綱海は唇を離し、


「…いたずらっていうのはこうやってやるんだ」
そういって笑った。


ーーー結局いつも通り綱海にいたずらされる立向居であったが、
それが嫌じゃないのは絶対教えてやらない、と立向居は心の中で呟いたのであった。


Happy Halloween!


Fin


2010/10/31

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