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大切なモノを教えて(佐久鬼)


「な、良いだろ?」
「…勿論鬼道さんも来るんだよな?」
「当たり前だろ。」
「じゃあ、行く!」

源田は、一気に顔がパァッと明るくなった佐久間を見て、苦笑した。
源田が何故、何の目的で佐久間を誘っているのか。それは至極簡単な話だ。クリスマスに帝国メンバーで集まらないか、ただそれだけ。
折角のクリスマスなのにいつものメンツで集まるのはどうなんだ、という疑問が沸かないわけでもないが、結局集まってしまうのが性な訳で。
まぁ俺としては鬼道さんと二人きりが良かったんだけど、なんて事を思いつつ、佐久間は誘いを受けたのであった。


*

クリスマス当日。

「おーい、佐久間ぁ」
源田は集合場所…もとい、自分の家の前に突っ立ってブンブンと手を振っていた。
その横には洞面や辺見など、いつものメンバーが揃っていたのだが、肝心の鬼道がいない。

「おい、鬼道さんは…」
そう言いかけたところに、
「すまない、待たせたか?」
マントを翻し、鬼道が現れた。
(鬼道さん!)
…そう言って抱きつきたいところだったのだが何故か強い違和感を感じたため、佐久間はフリーズしてしまった。

(あれ?何だこれ?)


「おい、鬼道。お前、マントの色…」
「ああ。午前中雷門で練習があって、そのまま来たからな。」
源田の質問に答える鬼道。

…そうか、違和感の正体はコレか。
鬼道が見につけているマントは、雷門での青いマントだったのだ。帝国時代の赤色のそれじゃなかった。

「そっか、練習お疲れさま。」
「ああ。」

(…………。)

何だかそれが妙に心に引っ掛かって、佐久間は複雑な思いで立っていた。
他の奴らはそんな事全然気にせずにいるのに。
佐久間の胸の辺りは何となくモヤモヤとしていて、結局、鬼道にろくに挨拶も出来なかったのだった。


*

「メリークリスマス!」
パァンとクラッカーがはじけて、クリスマスパーティという名目の忘年会が始まった。

「おい佐久間。わりぃんだけど、全員に飲み物ついでくれないか?」

キッチンで調理中の源田が、ひょこっと顔を覗かせた。
自分の家なので、色々と用意が必要なんだろう。さっきから大忙しである。
飲み物をつぐ、なんて雑用はいつもなら絶対に反抗するのだが、今日は鬼道さんがいる。
そんな格好悪いところは見せられない。
「…仕方ねーな」
そう言って、一人一人にノンアルコールのシャンパンをついでいく。

「おー、佐久間が雑用なんて珍しい」
「うるせえアホ」

…なんていう憎まれ口を叩きながら、鬼道の席にきた。


「鬼道さん、グラスを…」
「ああ、有難う。」

フッと微笑んで、こちらにグラスを傾ける。
他愛もない動作なのに、とても上品でスマートだ。
佐久間は思わず きゅんと鳴った胸を押さえた。
そして朱に染まったであろう自分の顔を隠しながらグラスにシャンパンを注ぎ入れた。
薄い紫色の液体がグラスを満たしていく。

「綺麗だな」
「はい」

(綺麗なのは貴方です)

今日は何だか調子が狂う。
マントが見慣れない色だから?

其処にいるはずなのに。
確かに、自分の愛する<鬼道有人>という人なのに。
何故だか存在が儚く見えて、少し寂しいような気分になった。

(…って俺、何考えてんだ…)


*

集まって1時間ほど経った頃。
雑談のネタはお互いの学校の話になっていた。

「最近どうだ?」
「まあまあだな…シュートの成功率が少し低くなってきている」
「そうか。シュートに関しては練習あるのみ、だな」
「ああ。…雷門はどうなんだ?」
「立向居は最初はどうしたものかと思ったが、どうやら円堂に次ぐキーパーになれそうだ。」
「そうか」
ワイワイ、と楽しそうである。
佐久間はいつの間にか傍観者になっている自分に驚きつつ、ちびちびとシャンパンを飲み続けた。


ーーーそんなとき。

「…なぁ鬼道」

「何だ?」

「雷門は楽しいか?」

突然の寺問の問いかけ。
(なっ…そんなん聞くなよ…!)
一人で焦る佐久間は何の言葉を発する事も出来なかった。
鬼道はーーー

少し驚いたあとに、
「ああ。楽しい」
微笑んだ。

(!)
その言葉で、完全に何かが我慢出来なくなった。
そのマントを今すぐ剥ぎ取りたい、そんな思いが溢れ出した。

(鬼道さんが上手くやっていけてるのは、勿論嬉しい。でも、)
佐久間はぎゅっ、と拳を握り締めた。
もう無理だ。

「…鬼道さん。鬼道さんは帝国より雷門の方が好きなんですか?」
「は?」
突然すぎる問い掛けに柄にも無く素っ頓狂な声を上げた鬼道へと、佐久間は畳み掛けた。

「帝国のことはもう、何とも思って無いんですか?」

馬鹿なことを言っている。
それは自分自身でも分かっていた。ただの嫉妬心だって、分かっていた。鬼道が困ることも、分かっていた。

それなのに

「鬼道さん、俺は…っ」
俯いて肩を震わせる自分の姿は、どう映っただろうか。

ただ我慢が出来なかったんだ。
自分の知らない場所へ、高みへあの人は登っていってしまうから。居なくなってしまう、って。
赤色のマントが青色に変わって、ただただ、寂しかったんだ。

「…佐久間」
凛としていて、力強い貴方の声。

聴こえたと思ったら、ふわっとした柔らかな空気抵抗とともに自分の体が抱きすくめられていた。ぎゅっと、優しく。

「馬鹿だな、そんな訳ないに決まっている。」

優しく、そう囁いた。
そして俺を放し、雷門のマントを脱ぎ、バックを取って。
帝国の、あの赤色のマントを見にまとったのであった。

「着替える機会が無かったから丁度良かった」
「鬼道さん…」

そして鬼道は 珍しいな お前がそんなこと言うなんて、と呟いて

「勿論、今も大好きだ」
と言った。

佐久間がしゅん、と鼻をすすると、鬼道は少し迷ってから 恥ずかしそうに頭をポンポン、と叩いた。

…やばい、これはクる。

「鬼道さんっ 大好きです…っ!」

我慢出来なくて佐久間がぎゅっと強く抱き締めたら、鬼道は顔を真っ赤にして「よせ、離れろ!」と言った。

(離れるわけありません)

そして、昔と変わらぬ髪の香りにただただ安心したのはきっと2人とも同じだから。

やっぱり一番大切なものは貴方だと、そう思ったんだ。


…ちなみにというか何というか、他の帝国メンバーは結局、イチャイチャカップル見学になってしまった訳で。
やっぱり一番可哀想なのはこの人たちであろう。

「あーあ…俺らにまるでお構いなしだな…」
「いつもの事だけどな…」
と皆が言う中でただ一人、
「ま、仲が良いのは良いことだ」
源田だけは嬉しそうに笑ったのであった。


fin


2009/12/25


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去年書いて結局アップしなかったものを何故…(黒歴史)
しかもクリスマスあんまり関係ないっていう!
本当に申し訳ないです…(笑)

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あきゅろす。
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