まだ空が赤に染まりはじめた頃。烏が黒のシルエットをうかばせながら、そんな空の下。天気がよかったのできっと星も綺麗にみえると思ったからあたしは退と抜け出した。真選組屯所からさほどとおくない、小高い丘へ。そこは二人でたまにさぼりにくる場所で、空が一番綺麗にみえる場所、だとあたしは思っている。 「で、今日はなんでまた」 退はあたしより早く歩いて芝生によいしょ、と座った。細い華奢な背中を、無性に愛しく思って、あたしは退の背中に自分の背中にあわせて座った。 「流れ星がみたくなったの」 退は振り向いて「流れ星い?」とちょっと馬鹿にしたような言い方をした。あたしは前をむいたまま答えた。 「お願いでもしようかなって」 あたしがそう言うと、退は空を見上げた。あたしは体育座りをしていたけど足が辛くなってうんとのばした。 「……それにしても、早すぎるんじゃない」 そう言われてあたしも空を見上げて苦笑いをした。まだ真っ赤な空。向こうでは太陽が沈まりかけていて流れ星がながれようにもながれれないような、空だった。 「ちょっと張り切りすぎたね」 「で、願い事ってなに?」 退はそういいながらあたしの背中から離れくるりとあたしのほうを向いて座り直した。あたしはまだ退に背中を向けていた。 「………ひみつ」 「えー、なんで」 「じゃあ退だったらなんてお願いするの」 問うと退はうーん、と悩みはじめた。お願い、なんて、あなたに、言えるわけないじゃない、 はずかしくて、 「なまえ!とずっと一緒にいれますよーに、かなあ」 あたしはびっくりして思わず退のほうを向いた。照れ笑いしてる退に、あたしも笑いかえした。 「あ、いちばん星」 退が指をさした方向をみると徐々に暗くなる赤紫の空にひとつだけ、輝く白い星。ながれてはなかったけどなんだかその星はあたしたちの願いをかなえてくれそうで。あたしは立ち上がって服についた芝をはらった。 「……かえろっか」 「うん」 いちばんぼし、みつけた あなたとあたしの願いは同じなんだから、流れ星に願う必要なんてないじゃない! 0915 まえつぎ |