たとえば、儚い花のように
街中から外れた昼時の小道はすれ違う人もおらず、ただ暖かい日差しが背中を流れた。わたしは前を向いて銀ちゃんの顔も見ずに早々と歩いた(こんな真っ赤な顔見せれない)
「死んでこい」
「なんだよちょっとチューしたくらいで」
「ちょっとじゃないだろ、さっきのかなりちょっとじゃない」
「嫌だった?」
「当たり前じゃんあんな街中で!」
「それが燃えるんだろーが」
「燃えねーよバカ」
「耳真っ赤だよなまえ!ちゃん」
「うっさい死ねよ」
「そんな死ね死ね言うなよ」
「銀ちゃんが悪い」
「死ねってそんな軽い言葉じゃなーだろー」
「いいから死ねよ」
「んじゃ死んでくっか」
え、わたしの足が鎖で掴まれたようにぴしゃりと止まった。背を向けたまま、なんだか振り向けなかった(別にもう顔は赤くない)
「いや、え、」
「そんなに死んでほしーなら」
「…」
「なまえ!がそれで気が済むなら」
「…」
「死んでくるけど?」
別に本気で死んでこいといったわけじゃないのはわたしも銀ちゃんも理解っているんだろうけれど、銀ちゃんの瞳が何時にも無く真剣だったので怖く感じた。わたしは何て頓狂な言葉を発したのだろうか。
銀ちゃんは戦争に参加していた過去があって、きっと幾つもの死を見ていたんだろう。幾人もの大切な人が亡き者になったのだろう。
家族も、友達も、銀ちゃんも、大切な人がみんな生きているわたしにはその死の重みは計り知れないものなのだろう。今更そんなこと思ってももう遅いのだけどわたしは何回銀ちゃんにこの言葉を発したかな、其の度に傷つけていたのかな。
わたしが不甲斐無いせいで、
「どうする?」
「…」
「なまえ!?」
「…っ」
「…なに泣いてんだよ」
「…なに抱き締めてんだよ」
「いやー泣かれたらそりゃ抱き締めるでしょ」
「…」
「俺死にたくないんだけど出来れば」
「…」
「なまえ!しょっちゅう泣くだろーが、其の度に慰めてあげれるの銀さんだけじゃね?」
「…」
「おーい、なまえ!ー?」
「ばかあほ」
「え、なんで」
「ごめんね」
「…うん」
たとえば、儚い花の様に
死なないで、
20070311
まえつぎ
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