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混ざりゆく景色
今朝遅刻したので罰として帰りぎわに先生の資料を運ぶのを手伝わされた。かよわい女の子にあんな大量の荷物を運ばせるなんてあいつハゲろと思いつつもちゃんと言われた通りに運んであげた。気づけばもうこんな時間。今日はいつも一緒に帰る友達が用事だったから一人でぶらぶらしながら帰ろうかと思っていたのに、空はもうオレンジ色が深い藍色に傾きかけている。うっすらと黄金の光を浴びる灰色の雲が深い色の空に混ざっていく景色はきれいだった。
校内にはもう人気がなく、運動部がやっと活動を終えて帰ろうとしていた。靴を履きかえグランウンドの横を通った。野球部の先輩がまだ練習をしている(他の学年の部員はもう帰ったのかな)


「なまえ!〜」


名前を呼ばれて反射的に振り向くと、後ろに山本くん(と、自転車)が!普段見慣れない野球のユニフォーム姿にどきっとしてしまう。


「山本くん、部活終わったんだよね?お疲れ様!」


そうわたしが言うと山本くんは「おーありがとな」と爽やかな笑顔をして見せた(かっこいいなあ!)(見とれてしまうじゃないの!)


「なまえ!はなんでこんな時間まで残ってんだ?」

「あ…ほら、わたし今朝遅刻したじゃない」

「ああ、してたなー」

「それの罰でね…あはは…」

「はは!なまえ!らしいなー!」

「えっそれ喜んでいいのかな…あはは…」

「んー?どうだろーなー?あっ後ろ乗ってくか?」

「あはは…別にいいけどね…えっ?!」


山本くんは何をそんなに驚いてんだみたいなきょとんとした顔でわたしを見ている。後ろに乗ってく?山本くんの?自転車の?後ろに?……それはあの、カップルとかがよくしている二人乗りですか、俗でいう2けつですか!


「えっえっえっ」

「なまえ!と家同じ方向だし送っていくぜ?」

「いいのー!?」

「全然かまわねーよ?」


そうやって山本くんはまたキラキラとした笑顔をわたしに向ける。山本くんと2けつなんてどうしようドキドキする!カップルでもないのにこんなことしていいのかな!(そりゃあわたしは山本くんが好きですが)

山本くんは自分の後ろをぽんと叩く。わたしは自転車(山本くんの後ろ!)にお邪魔しますといって座った。すると山本くんはちゃんとつかまっとけよーと言ってくれたのでお言葉に甘えてぎゅっと山本くんにつかまった。ああドキドキが伝わってしまいそうだ!



山本くんにつかまりながら喋るのはかなり困難なものだった。心臓は相も変わらず心拍数をあげているし山本くんのあたたかさが直で伝わってきたし自分が山本くんと2けつなんてしてることが信じられなかった。
気を紛らわすためにずっと喋っていたのだけど、夕焼けが綺麗な土手で会話が途切れた。聞こえるのは風の音と、カラスの声と、自転車を漕ぐ音だけでわたしの心臓の音も山本くんに伝わってるんじゃないかと思った。


「なまえ!、」


名前を呼ばれてはっとなる。自分を落ち着かせなに?と聞き返すと、



「毎日2人でこうやって帰れたら楽しいのになー」


と、一言。わたしはその時、その言葉の意味がよくわからなくて返事ができなかった。
自分のことでいっぱいいっぱいで今まで気づかなかったが、山本くんにつかまった手から山本くんの心臓の音が伝わってきた。

(ああ、山本くんもドキドキしてる)

なんだかそれがわかると落ち着いてきて思わず笑みがでた。山本くんはなんでわらってんだよ〜と言ってきた。わたしはあなたが好きだからよ!と心の中で返事をした。家について降ろしてもらったらちゃんと声に出して言おうと思った。二人の姿が、オレンジ色に光る道にうっすらと陰を作った。










2けつシリーズ第一弾!
      20070223

まえつぎ

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