[携帯モード] [URL送信]


火曜日、晴れ


(そろそろ正直にいいなって)
(だから恋なんてしてない)
(嘘、あたしにはわかる)
(なにが!)
(あんたが銀八のことすきってこと)

あたしはその手紙をぐしゃぐしゃと丸めて全力を込めてあのこの頭に投げ付けた。痛っ!ちょっとなまえ!なにすんの、と小さい声で言いながら斜め前の席から振り向くあのこをあたしは睨み付けた。腹が立つ。なんだかわけのわからないふつふつとした感情が湧き上がってくる。なにが。あたしがあいつをすき?バカ言わないでよ。なんであたしがあんなダメ教師をすきになんなきゃいけないの。ありえない。土方くんがマヨネーズを嫌いになるくらいありえない。(べつに神楽ちゃんが酢昆布を嫌いになるくらいでもいいんだけど)(要は絶対ありえない)
あらっ、顔がまっかだよとあのこがに執拗にひひと笑ってみせる。そんな挑発にのってしまって思わずバカ!と大声をあげてしまった(しまった、一応今授業中だった)
するとクラスのみんなと教壇に立っている銀八が一斉にこちらを向いた。
どきん、あたしの心臓がたしかにそう音をたてた。なにこれ、なんでどきんなんて音を心臓から出さなくてはいけないのだ。あのこが変なこというから無駄に意識してしまう。銀八と目があった。どきどきどきどき。止まらない。何故か止まらない鼓動。もう死にたい、この振動を止まらすには、死ぬしか、ない。お願いだからわたしのことは放っておいてよ、先生。

「おーい、みょうじ!どうした、なにがバカだ。ん?」
「いや、なんでもないです」
「なんでもないわけねーだろ…、まあいいや、授業中だからさァ、一応静かにしとけよ」

そう言い放つと先生はまた黒板に文字を書き始める。…なにその緩い注意は。あたしはこいつが大嫌いだよ。適当だしセクハラ発言おおいしタバコ臭いし糖尿病予備軍だし(その外色々)。あたしははあ、と溜息をついた。先生がまた、それは国語に関係あるのだろうかと質問したくなる程意味不明な授業を進めていく。あのこからの手紙も、さっきの出来事を境に止まり、退屈だ。だんだん眠くなってくる。そういえば今日は日直だなあとか銀八のこととかをぼんやり考えた。無性に青い空がむかついた。


放課後、あたしは独りの教室で日誌を書き綴る。もう一人の日直は帰ったらしい。ちくしょう、面倒くさいったらありゃしない。空がもうオレンジだ。それと同時に教室もオレンジに染まる。眩しいあつい色。雲を目で追ってみた。きゅっと胸が痛くなる。

あたしはなにをしているんだ、なにを書いて。なにを考えているんだ。

「なにしてんの」

いきなり背後から声を掛けられて体がビクっとなる。ゆっくりと振り向くとそこには銀八がいた。行き成りのことで数秒固まってしまい、心臓がまた心拍数を早める。ようやく口が開く。

「日誌かいてるんです」

銀八はあたしの前の席によいしょ、と座った。近い。距離が、すくない。銀八の髪の毛がオレンジの光にあたってきらきらする。あたしはそれを、不覚にも見惚れてしまう。

「おまえ、日誌なんて真面目に書いてるやついねーぞ?」

銀八は横を向いたまま視線を合わせずそう言った。それが教師のいうセリフか?本当に駄目教師だなコイツは。でも確かに日誌の前のページを捲ってみると、日誌というには程遠いらくがきがほとんどだった。わたしはそれをちゃんとわかっていた、けれど、書きたいことがあったのだ。

「ほうっといてください」
「そりゃすみませんね〜なまえ!ちゃん。それよりこんなもの拾っちゃったんだけど」

にやにやした笑顔で、自分の白衣のポケットをごそごそとしだした。そして、大きな手のひらで一つの丸められた紙切れが取り出された。その紙切れを見た瞬間思わず体が反応する。まさか、まさか、

「そ、れ、」

その紙切れは、まぎれもなくわたしが銀八の授業中にあのこと回し手紙した紙切れだった。あれが、書いて、ある、紙切れ。

「……なっにが、言いたいんですか」
「いやいやいや気になる一文があってね?」
「読んだんですか」
「おう」
「………わたし帰ります」
「おーっと待った待った」

早いうちに帰ろうと席をたつと腕をつかまれた。銀八があたしをみている。視線が、あたしに向かっている。あたしを。その真っすぐな目は、今までみたことないくらい真剣で。あたしの鼓動は高まるばかりだった。いたい、心臓がいたい。顔が赤くなる。

「みょうじ!さァ、俺のこと好きなの?」

よっぽど馬鹿じゃないの、とあたしはそう言いたかった。けれどその言葉は簡単にふさがれてしまった。あたしが何も言えず、ただ立っていると、ぐいと銀八に引っ張られた。その途端、キスをされた。
自分の顔が赤いのがわかる。体温が上昇しているのもわかる。その熱が、銀八に伝わっているのも、わかる。あたしは銀八の手を振りほどいて走った。

「え、ちょっとおい!」

銀八があたしを引き止める声も、耳からすり抜けあたしはただ走った走った。自分のしたことを、自分を、すごく悔やんだ。馬鹿はあたしのほうだ、どうしよう。
日誌にあんなことかいたまま置いてきてしまった。自分が、どうかしている、自分が、おかしい。くるっている。


(火曜日 晴れ

わたしは先生がすきです
     みょうじ!)











20060905
20070902加筆修正


つぎ

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!