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Love Boys
やきもち 1 〈夏目〉


※田夏的なものです。







 はぁ・・・

 家に帰ってきてから、電気をつけないで暗い部屋の隅で田沼は一人蹲り、どこか自分を責めたようにため息を吐いていた。

「最低だ、俺・・・。」
 今にも消えそうな声で呟く。そしてまたため息。







 いつもと同じように田沼は学校に行き、いつも通り友達と話をしたり、夏目と一緒に下校をしたり、いつもと同じ日々が何日か繰り返されていた。しかし、ある日からその『いつも通り』な日々に一つ、新しいことが加わった。それは、夏目と長く一緒にいられる唯一な時間でもある下校時に仔狐とも一緒に帰るようになったことだ。勿論、仔狐の住む場所は遠いから毎日とは行かないが、それが『いつも通りの日々』の中に入っていた。

「なつめー!見て、あれ蝶々っ!」
 飛んでいる蝶々を嬉しそうに見る仔狐。を、優しく見守る夏目。
「ああ。」
 夏目は仔狐にそう返す。
 目を輝かせて蝶々を追いかける仔狐に夏目は「フラフラしてると危ないぞ。」と言って、仔狐の手を握り、隣同士で一緒に歩いた。
「夏目の手、あったかい。」
「そうか。」
 二人で笑いあう、その様子を一、二歩ほど後ろから眺めているのは田沼だった。
仔狐と夏目のやり取りは微笑ましい光景だ。田沼もそう思い、時々こちらに視線を送って来る仔狐に優しげな笑顔で対応する。そうすると、仔狐も可愛らしく微笑む。

(なんか、親子なような、兄弟のような・・・。)

 そんな日々が何日か続いた。
 やはりいつものように夏目と仔狐は手を繋いで、田沼は半歩後ろに下がって歩く、という形になっている。
 夏目と仔狐の微笑ましい光景。田沼も勿論そう思っている。しかし、
(なんだろうな、このモヤモヤ感・・・。)
 『いつも通りの日々』に仔狐が加わった時から、田沼の中にモヤモヤとした何か分からない感情ができてしまっていた。
「はぁ」
 夏目達に聞こえないように小さく、消えてしまいそうな大きさでため息を静かに吐いた。すると、ゴツンッといきなり額に激痛が走った。
「ったぁ・・・っ!」
 下を向いて、思案していて前を向いていなかったため、目に前にあった木の幹に激突してしまったのだ。
 木の幹にあたった額を手で押さえ、蹲る田沼に気付いた夏目と仔狐は田沼の方に駆け寄り、
「おい田沼大丈夫か?!」
 夏目はそう言った。田沼は顔を上げながら「あぁ・・・。」と小さく返事をした。
「・・・っ。」
 顔を上げると、心配そうに見つめてくる仔狐に微笑み、
「大丈夫だよ。」
と、頭を優しく撫でてあげた。そうすると、「よかった。」と笑顔で仔狐が言い、田沼が立ち上がると、二人は再び歩き出し田沼も二人に続いて歩き始めた。

 少し経つと仔狐が
「夏目、またね。」
 そう言って、別の道へ走り去って行った。
「ああ。」
 夏目も答えて仔狐に手を振り、見送った。優しげな笑顔で。
(ああ、このモヤモヤ感の正体、今分かった・・・。)









(これは、仔狐に対するやきもちだ。)








 三度目のため息を吐くと、
(狐にやきもちなんて・・・。)
「本当、最低だよな・・・俺。」
 膝を強く抱きしめるようにして、情けない気持ちになる。
(俺のことを心配してくれる、優しい子なのに・・。)
 頬に生暖かい雫が伝った。その雫を拭い取ろうともせずに、ただ俯いているだけだった。するとふいに部屋が明るくなった。
「?」
 父でも来たのだろうか、と思い顔を上げるとそこにいたのは多少驚いた顔をしている夏目だった。
「な、んで夏目がここに・・・?」
 思ったことをそのまま口にしてみると「いや、ちょっと用があって・・・。」と言葉を濁らせる。そして「それより・・。」と続けて、

「なんで、泣いてるんだ・・・?」

 そう訊いた。田沼はその言葉にはっとし、急いで自分の頬を伝う涙を拭い取り泣いている自分を見られたという恥じらいからか、田沼はまた俯いてしまった。
「なにか、あったのか?」
 小さく首を横に振る。
「・・・じゃあ。」
 言葉を一旦切り、それから数秒黙った。
「?」
不思議に思った田沼は顔を少し上げた。すると、




「俺の、せいか?」








               
作者:凛祢



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