十六夜月の秘密
3
言われてみれば、そうである。
クロは1人称を1度も口にしていない。『あたし』とも『オレ』とも。
「勘違いしたのは、カイル」
「う...そうだね」
それから、しばらく沈黙が続いた。何を話していいのか分からず、カイルはずっと黙っていた。
クロの方も、ただ飲み物に口をつけるだけで、話し始めるような雰囲気ではなかった。
意を決し、カイルが口を開けようとしたところ―――。
「そうだ! あたしのこと、思い出した?」
急にクロは目を合わせてきた。
「えーと...ごめん」
「そっか。これだけ姿をみせても分からないかぁ。あ、あたしが綺麗に育ちすぎたとか?」
アハハ、ありえない、とクロは笑った。
「クロは綺麗だよ?」
カイルは思ったことをそのまま口にした。
「は...? 何言ってんの! ありえないから」
「え、本当にそう思っ...」
「うるさい! 真顔でそんなこと言わないでよ」
見事にクロのは耳まで真っ赤に染まっていた。
率直に言ったが、気に障るようなことだったのだろうか。
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