たまには一緒に。3
この日、ブラックはNと2人サンヨウシティに足を運んでいた。ホワイトやチェレンそして、ベルとサンヨウジムのジムリーダーが経営するカフェに行くことになっていたからだ。
現地集合ということで、カフェの前に移動すると、そこには長蛇の列が出来ており、ブラックたちは目をみはる。
「前に来たときも並んでたけど、それ以上だよ…」
「今日はなにかあるのかな?」
首を傾げていると、向こうから、おーい!と聞きなれた声が聞こえてきた。2人が振り向くとホワイト達がこちらに向かって駆け寄ってくるのが見える。
「ブラック!N!待った?」
「いや、さっき着いたばっかりだよ」
「ホワイト、この行列なんでたか分かる?」
「なんかね、今日はジムリーダーの人たちが接客やってるんですって!」
ホワイトは目を輝かせてそういった。いつもと違う格好をしているであろうジムリーダーたちが、接客しているなんてなかなかレアだろうことは安易に想像つく。
「楽しみだよね!ホワイト」
「そうね。どんな感じなのかしら。ほら、早く並びましょ!」
ベルとホワイトが先に並びに行くので、ブラックたちはチェレンと一緒にその後を追う。
「チェレン」
「ベルがサンヨウジムのジムリーダーたちと仲良くて、今日のこと聞いたらしいよ」
ブラックが声を掛けると、チェレンは溜息を吐いてそう返した。どうやら、プラズマ団との一件で彼らは仲良くなったらしい。
それなら仕方ないと、ブラックとNは苦笑いしながら顔を見合わせ、ホワイトたちの後ろに並んだのだった。
それから、暫くしてブラックたちは入店することができた。店内は外同様に人が多く、その間を縫うようにしてウェイターやウェイトレスの格好をしたジムリーダーたちが、お盆やメニューを持って動いている。
「ホントにジムリーダーがやってるんだ…」
「もぅ!ブラック嘘だと思ってたの?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ」
その姿を見て、ブラックが思わず言葉を漏らすと、それを聞いたベルがむぅっと頬を膨らませた。
そんなベルに手を左右に振って否定をしていると、彼らに気付いたアーティがメニューを持ってやってくる。
「おや、ブラック君たちじゃないか。いらっしゃいませー」
「こんにちは。大盛況ですね」
「ふふっ。お陰様でねー。はい、これメニューだよ」
オススメは木苺のマフィンだよ、じゃあ決まったら声掛けてね。とアーティはメニューをテーブルの上に置いて、別のテーブルに居る客の方へと移動して行った。
アーティの背を見送って、なににしようかとブラックたちがメニューを開いた時だった。
フロア中がいきなり騒つき始め、ブラックたちもそれに釣られて顔を上げる。
「なんだ?一体」
「ブラック、あれ!」
首を傾げるNに対し、何かに気付いたチェレンがブラックの肩を叩く。
すでにベルとホワイトは騒ぎの原因が分かったようで、そちらに目を向けていた。
「……あれって、セッカのハチクさん?」
そう。突然フロアに出てきたのは、今まで厨房に居たはずのハチクだった。彼は、他のジムリーダーたちと同様に、銀盆の上にカップを乗せて、颯爽とフロアを歩く。
普段しているマスクとは違うものなのか、髪の毛と一緒にマスクの端がひらひらと舞っている。一本の棒が入っているのではないかと思うほど、背筋がピンっと伸び、歩いているのに軸がブレると言うことがない。
それに、普段の格好から全く予想のつかないウェイター姿は、インパクトを与えるのには、十分な役割を果たしていた。
「お待たせ致しました。ホットカフェオレ、お2つになります」
そう言って、ハチクは音を立てる事無く、ソーサーに乗ったカップをテーブルの上に置く。
その一挙一動に見惚れていた、客の女性たちは、ほぅ。と頬を赤く染めて息を吐いた。ハチクは控えめに笑みを浮かべ、どうぞごゆっくり。と会釈をし厨房の方へと足を向ける。
その姿が厨房へ消えると同時に、フロアは音を取り戻したかのように凄まじい悲鳴とも言える声があちこちから上がった。それも全部黄色い悲鳴と言う方が正しい。
「あ、あの人誰!?スゴイステキっ!」
「あの人もジムリーダーなのよね!!」
「きゃー!私もあの人に持ってきてもらいたぁいっ!!」
そんな声を耳にしながら、ブラックは厨房に目を向けた。再びハチクが出てくる気配はどうやらないようだ。
「ハチクさんステキー…」
「格好よかったねー」
ホワイトとベルも、他の女性客たちと同様にハチクに見惚れていたらしく、僅かながら頬が赤い。
それを見てチェレンは少し複雑そうな顔をしているし、Nは歓迎会でハチクさんに会った以来だったからか、ハチクがどういう人物だったかあまり把握していない。それもあってか、不思議そうな顔をしている。
「確か、ハチクさんって以前は有名な俳優だったらしいよ」
その話を聞いたのは、いつのことだったかは忘れてしまったが、間違ってはいないはずだ。
ブラックが頭の片隅にあったそれを皆に教えてやると、納得したらしく、ホワイトなんかは、役者ならあんなのはお手のものね。なんて言っていた。
「皆、注文は決まったかい?」
「アーティさん」
「さっき、ハチクさんがフロアに出てきましたけど、スゴイ人気でしたね」
再びブラックたちのテーブルにやってきた、アーティに彼らが注文を告げながら、そんなこてを言うと、アーティもスゴかったねー。と笑っていた。
「本当はね、ハチクさん厨房から出ないって約束で、今回の手伝いを受けてくれたんだよ」
まぁボクの我が儘に応えてくれたのもあるのかもしれないけどね。とアーティは言った。
不思議そうな顔をするブラックたちに、アーティは内緒だよ?と話を続ける。
「ハチクさんって、人と関わるのが苦手でね。だからフロアは嫌だって言ってたんだけど、ほら今お客さん多いじゃない?」
だから駆り出されちゃって。嫌々だったみたい。とアーティは苦笑い。それを聞いてブラックたちは信じられないと顔を見合わせた。
フロアを歩いているハチクからは、そんな雰囲気は微塵も感じられなかったからだ。
「多分スイッチが入ってたんだよ」
「スイッチですか?」
「そう。やっぱりさ、昔から身につけちゃったものって中々抜けないみたいでね、偶に入るんだって」
それが何かをアーティは言わなかったが、ブラックたちはそれが役に成り切るためのスイッチなのではないかと思った。
アーティは、ブラックたちから受けた注文を確認して、厨房へ行ってしまった。
「人って色々有るのよね」
ホワイトの一言に、ブラックたちは黙って頷くのだった。
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