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月下のぬくもり
三十一
悲鳴に我に返った桂秋は、慌てて横たわった皇帝の脈を取ろうとした。
その顔色は真っ白だ。
「曜和さま」
呼びかけても目は開かない。
呼吸だけは感じられる。

だが手首を取ろうとすると、女性に突き飛ばされたのだ。
よろけた桂秋は、そのまま床に倒れてしまった。
「自分で毒を飲ませておいて何をするの!」
「…?」
「あなたがついだお酒をお飲みになって倒れたのよ!あなたは医者の弟子だそうね、毒を手に入れるのはたやすいことではないの!」
その言葉に桂秋が目を見張ると、女性の背後から宋紅芭が顔をのぞかせた。
そして彼女は大きな声で、ゆっくり、はっきり言ったのだ。
まるで皆に聞かせるかのように。

「あなたのお父さまは、先の陛下のせいで今は寝たきりなのよね。いずれは大臣にもなろうかと思われていた方だったのに、先の陛下が周囲の寵臣の讒言をお信じになったせいで流罪となったあげく、官をやめざるを得なくなった。先の陛下を憎んだことでしょう。崩御なさった今、目の前の陛下を恨んでも仕方のないことだわ……」
宋紅芭は、床にいる桂秋を見下ろして、にっこりと笑った。
氷よりも冷たい笑み。
顔から血の気が引くのが、桂秋は自分ではっきりわかった。

紅芭だ。
この人がやはり、皇帝を憎み、殺そうとしていたのだ。
そしていまその罪を、自分になすり付けたのだ。

倒れた皇帝の傍らには、場にいた蘇朔がすぐにやってきた。
そしてすぐに陸仙強を呼ぶよう言いつつ、自分で脈を取った。
「水を」
そう言う声にすぐに水が用意され、同時に陸仙強も駆けつけた。
陸仙強が、意識のない皇帝の口に水を含ませる。

「衛兵を早く呼びなさい!この娘を捕らえるのよ!」
女性の金切り声が響き渡る。
「この娘のせいよ!この娘が陛下に毒を!この娘は医者の弟子だもの、毒は簡単に手に入るわ」
「陛下に恨みを抱いていたなんて…それなのに平然とした顔でおそばにお仕えしていたのね。なんと恐ろしいこと!」
「陛下に取り入って、油断させておいたあげくこんな大それたことを」
「これまでのご不調も、この娘のせいだったのでは?ご体調がよくなってしまったから、今夜思い切って強い毒を混ぜたのよ。そうに決まってるわ」
「この娘がついだお酒に、毒が入っていたのだもの、間違いない、この娘のせいよ」

やってきた衛兵が、皇帝の夫人たちの命令で桂秋を捕らえる。
そしてそのまま外へ連れ出した。
皇帝の周囲には人だかりができていて様子は見えない。
女性たちも皆で皇帝を取り囲んでいる。
ただ宋紅芭だけは、その場から少し離れたところに立ち、桂秋をじっと見つめていた。
ほほ笑んで、じっと。


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