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月下のぬくもり
二十八
数日後、宮中で宴が催された。
多数の官僚たちが呼ばれ、後宮の女性たちも皆侍っており、大変華やかなものだ。

この宴に皇帝は、蘇朔も呼んでいた。
蘇朔がやってきて、皇帝と二人で話をしていることは桂秋も知っていた。
そこへ陸仙強も混じり、三人で話を始めたことも。
体調のことなど話しているのだろうと、桂秋は何の疑問も抱かずに自分の部屋で待っていると、人がやってきて桂秋も呼ばれた。

皇帝の部屋に向かうと、ちょうど蘇朔と陸仙強が出てきたところだった。
蘇朔は宴に出るが、陸仙強は出ずに別室で控えているということも桂秋は承知していた。
二人の後から皇帝も姿を現す。
「じゃあ蘇朔、今夜はゆっくりしていけ」
「ありがとうございます。では桂秋も、また」

人がやってきて、蘇朔を案内して去っていく。
陸仙強もいったん自分の部屋に戻ってゆく。
宴はもう始まっていると桂秋は聞いている。
宴が行われている建物はここから少し遠いが、管弦の音は風に乗ってここまで届く。
「曜和さま、ご気分はお変わりありませんか?」
「ああ、大丈夫。じゃあ行こうか」
皇帝は、桂秋を連れて宴に向かった。

少し後ろをついて歩きながら、桂秋は皇帝の背中を見つめた。
美しく筋肉のついた、均整の取れた体つき。
こうやって改めて見てみると、初めて自分が会ったときの皇帝は少し痩せていたのだなと思う。
弓が得意で、以前はよく鍛錬をしていたそうだ。
体調を崩している間は遠ざかっていたが、最近は少しずつだがまた手にするようになって、桂秋もその様子をのぞかせてもらったことがある。
とても立派だった。

廻廊を渡る足元を、いくつもの明かりが照らし出す。
今夜は月夜だった。
夜空には雲一つなく、白い月明かりが廻廊の柱を照らし出している。
皇帝は立ち止まった。
「きれいな月でございますね」
桂秋が話しかけると、皇帝もほほ笑んでうなずく。
「そうだな」
そして、周囲の灯をすべて消させた。
月明かりがくっきりと影を作る。
皇帝の影も、その立派な立ち姿のまま後ろに一本伸びる。
少し離れたその隣に自分の影が伸びている。
桂秋がそれを振り返って見ていると、皇帝の影から自分の影のほうに腕が伸びてきたのだ。
あっと思ったときには、皇帝の手が自分の肩を抱き寄せていたのだった。

桂秋をそばに引き寄せると、その手はすぐに肩から離れる。
だがそれでも桂秋は、いつまでも動悸がおさまらなかった。
先程まで離れていた二つの影が、今は一つの影に見える。
空を見ると、月もまた輝きが増して見える。

すぐ隣の皇帝を見上げると、じっと月を眺めている。
そのまなざしは穏やかだが力があって、体の不調はほとんど癒えたことをあらわしている。
もう大丈夫。
桂秋はそっと目を伏せた。

「曜和さま、もう参りましょう」
桂秋は一歩下がってから声をかけた。
「みなさま曜和さまをお待ちでございましょう。あまりお待たせになってはよろしくございません」
「もう少しゆっくり見ていても」
皇帝は笑った。
「おまえは厳しいな」
「普通でございます」
「まあ、確かにおまえの言うとおりではあるがな。しかしな」
「はい?」
しかし、という言葉に桂秋は皇帝を見つめた。
すると皇帝は言ったのだ。
「なぜそう離れようとするんだ」
「え…?」
そして、再度桂秋の肩を抱き寄せると、それに赤くなった桂秋を見て笑った。
「曜和さま!」
皇帝はぱっと手を離した。
「まあ今はいい。今夜の月もきれいだ。またあとで二人でゆっくりと見よう」

再度ともされた明かりに導かれ、桂秋は皇帝のあとから宴が行われている広間に向かった。

酒を飲みすぎないよう見張っていればいい、と言われた桂秋は、てっきり物陰で控えているつもりでいた。
だが皇帝は、桂秋も表に連れて行こうとするのだ。
「曜和さま、わたしはこちらで結構でございます」
「そばで見張れと言ったはずだ。さもないと酒を浴びるほど飲むぞ」
「……」
そう言われたら、一緒に行かざるを得ない。
桂秋が黙って従うのを見て、皇帝は笑う。
桂秋は、上座の皇帝の後ろのほうに控えていることになった。


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