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月下のぬくもり
二十四
用を済ませたあとは部屋に戻り、今度こそ本の続きを読み始めた。
聞いたことのない薬草のことがいろいろ書いてあり、これはと思うものには付箋をつけて後で陸仙強にも確認してもらおうと思う。
よさそうなものであれば、至急取り寄せてもらおう。

書物に目を通しているうち、いつの間にか時間もだいぶ過ぎていたが、皇帝はまだ正殿にいるという。
何かあったからというわけではなく、単に今日は忙しいだけらしい。
それは桂秋にとり安心でもあり、心配でもある。
そうこうするうち、ようやく皇帝が戻ってきたと聞いた。
桂秋を呼んでいるという。

行ってみると、皇帝は窓辺に立ち庭を眺めていた。
そして桂秋が入ってきたのを見て、いったん窓に背を向けた。

「曜和さま、お疲れでございましょう。お掛けになってくださいませ」
桂秋が椅子を勧めると、そこで初めて腰を下ろす。
おそらくはいま運ばれたばかりなのだろう、湯気の出ている湯のみが卓上にあるが、まだ手をつけてはいないらしい。
桂秋がそれを手渡すと、ようやく口をつけた。
そして、
「世話の焼けるやつだな」
と、自分で言って笑った。
「本当に」
と桂秋が笑って応じるとさらに笑う。
「でも曜和さま、ご無理はなさいませんように」
桂秋の言葉に笑顔でうなずく。

そしてその笑顔のまま庭へ目を向けていたが、やがて笑みをおさめつつ桂秋に尋ねた。
「紅芭に呼ばれたそうだな」
「はい。曜和さまのことをご心配になっていらっしゃいました。あと、お気を悪くなさらずまたいらしてほしいとのことでございました…」
皇帝は、桂秋に人を呼ぶよう言いつけ、やってきた側近に紅芭への言付けを命じた。
大丈夫だから心配するな、ということだけを。

また来てほしいという言葉に対しての返事はない。
それはたまたまなのか、敢えてなのかは桂秋にはわからなかった。
側近が出て行くのと入れ代わりに別の人間がやってきて、皇帝に来客を告げた。

手が空くと桂秋はすぐに書籍に目を通したが、陸仙強と手分けをしているとはいえ、すべてに目を通すのは時間のかかる作業だと思われた。
夜になり、皇帝に薬湯を運んで早く休むよう言うと、皇帝は、わかったからおまえも休めと言った。
「今日はずっと本を読んでいるんだろう?あまり根をつめるな」
「わたしは大丈夫でございます。曜和さまこそ早くお休みに」
「はいはい、わかった。大丈夫、今夜は一人で眠れるから」
桂秋は必ず寝るように言った後、皇帝の前を辞した。

今日は幸い、発作は起きなかった。
だがいつまた起こるのかわからない。
いや、もしかしたら起きないかもしれない。
それさえわからない。

部屋に戻った桂秋は、寝る前にもう少しと本を読み始めてしまった。
もう少し、あと少しと読み進めるうちに夜は次第に更けてゆく。
さすがにもう明日にしようと、桂秋は本を閉じようとした。
だがそのとき、ある薬草に関する記述が目に入ったのだ。
桂秋は手をぴたっと止めた。
そして、そのまま本を抱えると、慌てて陸仙強のところに向かった。


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