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月下のぬくもり
二十三
翌朝、皇帝の具合はすっかりよくなっていた。
そして、政務を見に正殿へと出向いていった。
大丈夫と本人は言ったが、心配した陸仙強がそれについていった。
確かに、いまは大丈夫でも油断はできない。

皇帝を見送ったあと、桂秋は自分の部屋に戻って本の続きを読もうとした。
だがそこへ、桂秋をたずねて宦官がやってきたのだ。
「郭桂秋さまでいらっしゃいますか?宋紅芭さまがお会いになりたいとおっしゃっておいでなのですが」
後宮にいる、仮にも皇帝の夫人にそう言われたら断れない。
きっと皇帝の様子を聞きたいのだろう。
先夜に続き昨夜も発作を起こしたことは耳に入っているのだろう。
一刻も早く続きを読み進めたかったが、桂秋はやむなく、宦官について後宮に向かった。

先夜と同じ建物に向かうと、昨夜とは別の部屋に通された。
立って待っていると、すぐに侍女に先導された宋紅芭がやってきた。
先日と違う衣装をまとっていたが、先日と同じように美しかった。
絹張りの椅子にふわっと腰を下ろすと、立ったままの桂秋に対しても腰を下ろすよう言った。
「ありがとうございます。わたしはこのままで結構でございます」
「そう?」
宋紅芭はほほ笑んだ。
「ああ、じゃああなたはお忙しいでしょうから、さっそく用件を話すわね。陛下のお具合はどう?」
「はい、いまはお元気でございます。ご体調もご気分もおよろしいようでございます」
「そうなの、それならよかったわ。ここであんなふうに体調を崩されてしまって。しかも、昨日もまた、と耳にしたものだから…」
宋紅芭は眉をひそめてみせた。
「確かに、今日はお元気そうという話は聞いたけれど、やはりおそばにいるあなたの口から聞きたくて。それにしても、なぜ急にあんなふうに。それまではお元気だったのよ」
「陸先生が診ていらっしゃいますから大丈夫でございます」

決して疑うわけではないが、桂秋は気を許さないよう身構えていた。
そうでなくとも陸仙強は、体調不良は毒物のせいではないか、ということはあまり広めないようにしているのだ。

「ここのところ体調を崩し気味とは聞いているけれど、こちらにいらっしゃるときはいつもお元気そうだし…。まあ時々、頭痛がするようなときもおありだけど、すぐにおさまっていらっしゃるし」
「あまりご心配なさいませんよう。曜和さまのお体は陸先生がきちんと診ていらっしゃいますから」
「あなたもね」
宋紅芭はにっこり笑った。
「陸先生の助手と聞いているわ。もとは陸先生のお知り合いのお医者さまのところで勉強していたとか」
「はい」
「そんなあなたを、ここへ留め置いたのは陛下なんですって?」
「はい」
「陛下の気まぐれだそうね。でもあなたはそれでいいの?陛下のおそばにお仕えすることになって」
「?」
それはどういう意味かと、桂秋は内心で首をかしげた。

「聞いたわ、あなたのお父さまは、先の陛下のせいで不遇をかこつことになってしまったとか。いまの陛下に対しても、あまりよい感情は持てないのでは」
「その件でしたら、父もわたしももう済んだことと思っております。先の陛下のなさったことは、曜和さまには関係ございません」
「そう」
宋紅芭はほほ笑んだ。
「それを聞いて安心したわ。あなたには失礼だけれど、よい感情を持たないのに陛下のおそばにいるとしたら、やはりこちらも心配だわ」
「余計なことにお気をつかわせてしまい申し訳ございません」
「あら、こちらこそ失礼なことを言ってごめんなさい」

それから宋紅芭は、皇帝に自分がとても心配していると、さらには、気を悪くせずまた来てほしいと伝えてほしい、と言った。
「かしこまりました。確かにお伝えいたします」
「お願いね」
紅芭はほほ笑んでいる。

外へ出た桂秋は、歩きながらいまの紅芭の様子をもう一度振り返ってみた。
だが特に不審なところは思い当たらない。
ただ、強いて言うのであれば。

本気で皇帝のことを心配しているようには思えなかった。


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