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金の過去 銀の未来

結局それから雪華は、捷隆に屋敷まで送ってもらったのだ。
固辞したが、捷隆は構わないと何度も言う。
あまり固辞するのも失礼だと思うし、なにしろ話が途切れないのだ。
何を話すわけでもないけれど、話が終わらない。
話が弾んだのだ。
これ以上ないほど高貴な身分なのに、それにかかわらず気さくな人柄だ。
自分なんかの話をうなずきながら聞いてくれる。
一緒にいるだけで心が弾む。
そうこうするうち、屋敷についてしまっていた。
「ここなんです。どうもありがとうございます」
「いや。じゃあ、また。おまえはどうせ前日に来るだろう?」
「ええ」
雪華は、茜姫の輿入れの前日に宮中に入り、茜姫を待ち受けることとなっていた。
「ならそのときに。帰ろう、黎明」

捷隆は、江黎明を引き連れて、今来た道を戻っていった。
それを雪華は、角を曲がって姿が見えなくなるまで見送っていた。

ああ、本当に。
自分が茜姫なら、喜んで輿入れするのに。
あんなに素晴らしい人はいないだろうに。

「捷隆さま」
「ん?」
角を曲がったところで、江黎明が捷隆に話しかけた。
「どうせなら、茜姫さまのことをお聞きになればよろしかったのに」
「ああ…そういえばそうだな」
「あまりご興味がないようでございますね」
「……。それよりおまえだ。おまえ昔、妹がさらわれたそうじゃないか。今の話、心当たりはないのか」
江黎明は首を振った。
「もうそのことは、我が家では誰も話題にいたしません。娘など、妹など、初めからいなかったのです。そう考えないと母がつらそうで。妹は、母がちょっと目を離した隙にさらわれてしまったそうですから。当時、精一杯の手を尽くしましたが見つかりませんでしたし」
「そうだったな…」

屋敷の中に入った雪華は、一人こっそりため息をついた。
そして、買ってきたものを渡すと、まずは自分の部屋に舞い戻った。
小さな部屋の片隅の棚から、小さな桐の箱を取り上げる。
中には、金の小さな腕輪が入っていた。
花模様の細かな彫刻が施されている。
気がついたとき、これは雪華の腕にあった。
引き取られたとき、謝徳秀は言った。
「これはきっと、おまえの両親がおまえに授けてくれたものに違いない」と。
謝徳秀もこれを手がかりに両親を探してくれようとしたのだが、見つからなかった。
「今は見つからなかったが、この先、見つかるかもしれない。だから、大切に持っておきなさい」
小さな腕輪は子供用で、大きくなるにつれてはまらなくなってしまったが、雪華は大切に保管していた。
自分のことを気にかけてくれた捷隆。
これを見せたら、きっと探してくれようとするだろう。
もしも機会があったなら見せてみよう。

と思い、慌てて首を振った。
自分は何を考えているのだ。
自分などが、捷隆と馴れ馴れしくするなんて。
そんなこと、許されないのだ。

と思いつつも、輿入れの日が近づくにつれ、雪華はうれしくなる自分を感じていた。


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