金の過去 銀の未来 七 結局それから雪華は、捷隆に屋敷まで送ってもらったのだ。 固辞したが、捷隆は構わないと何度も言う。 あまり固辞するのも失礼だと思うし、なにしろ話が途切れないのだ。 何を話すわけでもないけれど、話が終わらない。 話が弾んだのだ。 これ以上ないほど高貴な身分なのに、それにかかわらず気さくな人柄だ。 自分なんかの話をうなずきながら聞いてくれる。 一緒にいるだけで心が弾む。 そうこうするうち、屋敷についてしまっていた。 「ここなんです。どうもありがとうございます」 「いや。じゃあ、また。おまえはどうせ前日に来るだろう?」 「ええ」 雪華は、茜姫の輿入れの前日に宮中に入り、茜姫を待ち受けることとなっていた。 「ならそのときに。帰ろう、黎明」 捷隆は、江黎明を引き連れて、今来た道を戻っていった。 それを雪華は、角を曲がって姿が見えなくなるまで見送っていた。 ああ、本当に。 自分が茜姫なら、喜んで輿入れするのに。 あんなに素晴らしい人はいないだろうに。 「捷隆さま」 「ん?」 角を曲がったところで、江黎明が捷隆に話しかけた。 「どうせなら、茜姫さまのことをお聞きになればよろしかったのに」 「ああ…そういえばそうだな」 「あまりご興味がないようでございますね」 「……。それよりおまえだ。おまえ昔、妹がさらわれたそうじゃないか。今の話、心当たりはないのか」 江黎明は首を振った。 「もうそのことは、我が家では誰も話題にいたしません。娘など、妹など、初めからいなかったのです。そう考えないと母がつらそうで。妹は、母がちょっと目を離した隙にさらわれてしまったそうですから。当時、精一杯の手を尽くしましたが見つかりませんでしたし」 「そうだったな…」 屋敷の中に入った雪華は、一人こっそりため息をついた。 そして、買ってきたものを渡すと、まずは自分の部屋に舞い戻った。 小さな部屋の片隅の棚から、小さな桐の箱を取り上げる。 中には、金の小さな腕輪が入っていた。 花模様の細かな彫刻が施されている。 気がついたとき、これは雪華の腕にあった。 引き取られたとき、謝徳秀は言った。 「これはきっと、おまえの両親がおまえに授けてくれたものに違いない」と。 謝徳秀もこれを手がかりに両親を探してくれようとしたのだが、見つからなかった。 「今は見つからなかったが、この先、見つかるかもしれない。だから、大切に持っておきなさい」 小さな腕輪は子供用で、大きくなるにつれてはまらなくなってしまったが、雪華は大切に保管していた。 自分のことを気にかけてくれた捷隆。 これを見せたら、きっと探してくれようとするだろう。 もしも機会があったなら見せてみよう。 と思い、慌てて首を振った。 自分は何を考えているのだ。 自分などが、捷隆と馴れ馴れしくするなんて。 そんなこと、許されないのだ。 と思いつつも、輿入れの日が近づくにつれ、雪華はうれしくなる自分を感じていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |