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金の過去 銀の未来
十七
「あれからどうだった?父上が何かまた変わったことを言わなかっただろうか」
「いいえ、特に。ずっと桃葵さまのお話をうかがっておりました。本当にずうっと」
「ずっと?」
「ええ。…誰かにお話になりたかったのかもしれません」
「それなら何も…」
何もわざわざ皇后になどしなくても、と続くようだった。
だが、捷隆は今その先を飲み込むと、それ以上は決して口にはしなかった。
「…そうか。それで、謝徳秀と話はしたか?江順育や黎明とは?」
「はい。みなさま、明日からもまたいらしてくれるそうです」
「そうだな、それに明日はおまえの母親も来よう」
雪華はほほ笑んでうなずいた。
「そうか、黎明の妹か。黎明とは小さい頃から一緒で…」
捷隆は、彼のことを話し出そうとした。
だがそれは長くなると、すぐに察したようだった。
「…ああ、こういう話は明日以降にしよう。今はもう戻る。気にしているだろうから」
捷隆は笑って扉を見やった。
「明日…?」
「ああ、俺は毎日父上のところにうかがうから」
ということは、捷隆の姿も毎日見られるのだ。
話も少しはできるはずだ。
雪華の顔が、知らず知らず輝いた。
それは捷隆もすぐにわかったようだった。
一旦腰を浮かせかけた彼だったが、再び腰を掛け直した。
そして雪華のほうに手を伸ばすと、銀の腕輪のはまっている手を取った。
腕輪は袖の中だったが、椅子に座っている捷隆からは見えたようだった。
不意に手を取られ、雪華は一瞬びくっと体を震わせた。
だが捷隆は、それには気付かなかったふりをして動きを続けた。
「あの金の腕輪のように、これもおまえを守るとよいが」
捷隆は、そう言って一旦腕輪を抜き取った。
そして、手にしたそれを一瞬じっと見つめると、再び雪華にはめてやり、今度こそ立ち上がった。
「さあ、じゃあ戻るか。また明日」
その口調は明るくて、雪華の知っている捷隆にすっかり戻っていた。
雪華も笑った。
「はい。おやすみなさいませ」
「おやすみ」
扉を開けると、そこには心配そうな宦官が立っていた。
捷隆は、彼におかしそうに笑いかけた。
「ほら、すぐだっただろう?」
宦官が慌てたように目をそらす。
万が一にも間違いがあっては、と気にしていたのだろう。
自分が父帝の皇后となる以上、それは決して許されないのだ。
太子が父帝の后に手を出すなど。

「いつかおまえを自分のものに」。
そう聞いたのは、今日なのに。
いつか、と言っているうちに間に合わなくなる。
そう言った皇帝の言葉が頭の中に浮かんで消えた。
捷隆の姿も、夜の闇の中に消えていった。
彼の姿が見えなくなるまで、雪華はその場でじっと見送っていた。

翌日、雪華は江順育の娘として皇后となった。
あの老婆の占いのとおりだった。


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