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金の過去 銀の未来

建物のほうに戻ると、江黎明が捷隆を探していたところだった。
「捷隆さま、謝さまがお見えです」
そう言う彼の背後には、謝徳秀がいた。
「ああ…。これから父上のところに行くんだろう?」
「ええ、ご挨拶を。ああ、ちょうどいい、雪華も一緒に来なさい」
「はい…?」
謝徳秀が、皇帝に挨拶に行くという予定は雪華も知っていた。
だが、自分も一緒に行くとは雪華は知らなかった。
捷隆も一緒に行くと言う。
「まずはおまえに話しておきたくて」
と、謝徳秀は言った。
「おまえから茜姫に話してやっておくれ。……陛下はここのところ、お体の調子がいたくすぐれなくてな」
捷隆もうなずいた。
「おまえと初めて会ったあのとき。黎明は、それを伝えにやってきたんだ。父上が倒れられたとな」
「そんなに……」
「ここ数年、確かにあまり体調は芳しくなかったが、最近になって特にお悪くなって…」
誰もはっきりとは言わないのだが、皇帝の体調はだいぶ悪いようだった。
はっきり言わない、というところが、体調の悪さを表していた。
悪くないならば、そうはっきり言うだろう。

雪華は三人に連れられるように、皇帝の住まう建物までやってきた。
そして、捷隆と謝徳秀が皇帝の部屋に入っていくのを、その扉の脇で見送っていた。
江黎明も一緒に中に入る。
三人はすぐに出てきた。
扉の隙間から見えたのは寝台だった。
ここは皇帝の寝室なのだ。
もう、起き上がれないということなのだ。
扉が最後、静かに閉まろうとした。
だがそのとき、閉まりかけた扉が中から再び開いたのだ。
「捷隆さま!」
出てきたのは老宦官だった。
おそらく、皇帝の身辺の世話をしているのだと思われた。
「お待ちください!」
「どうした?」
「こ、こちらの方は…?」
老宦官が示したのは、雪華だった。
「茜姫の侍女だが、どうかしたのか?」
「それが、陛下が…。いえ、わたくしもでございますが…」
老宦官の顔は青ざめている。
「どうかしたのか?」
そのとき、部屋の中から声がしたのだ。
「捷隆」
捷隆を呼び捨てにする人物は、父親である皇帝しかいない。
捷隆はどうかしたのかと部屋の中に戻ろうとした。
だが、すぐに驚いたように駆け出したのだ。
「父上!起きられては!」
「あの娘は…」
「彼女がどうかしたのですか」
「ここへ、ここへ連れて来なさい」
「雪華がどうかしたのですか?」
謝徳秀が、その場にいる老宦官に尋ねる。
尋ねながらも、皇帝の命令のとおりに雪華を連れて室内に舞い戻った。
雪華の目に、真っ白な着物を着た皇帝が映った。
寝台に体を起こしているのだが、それを捷隆が横たえようとしている。
皇帝は、雪華を見つめていた。
「おまえは…」
そして、こちらに手を伸ばそうとするのだ。
そうされても、雪華には何も出来ない。
ただ、どうしたらよいのかと謝徳秀と捷隆を見比べた。
すると、老宦官が涙ぐみながら言ったのだ。
「桃葵(とうき)さまにそっくりで…」


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あきゅろす。
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