CrossRoad
きっかけ
泣くだけ泣いた――。
足どりは重く、夕日が力いっぱい顔を照らしまばゆく光ってるはずの目の前の景色が暗い。
思い出すとまた涙が溢れてくる――。
校舎の横を通り過ぎる時、グラウンドに繋がる階段から駆け上がってくる人影が目の前に飛び出してきた。
「小楠先輩っ。今帰りですか?」
晃治くんだった。
私を見つけて近寄ってきながら声をかけてくる。
今は誰とも会いたくないのに……。
急いで涙を拭って悟られないように返事をする。
「……あっ……うん……。帰るとこだよ……。」
笑顔を作ろうとするけど上手くいかない。
「……ちょっと……、どうしたんですか?何かあったんですか?」
異変に気付いた晃治くんが慌てて言ってくる。
「何でもないから……。ごめんね。気にしないで……。」
そう言った後に涙が頬を伝ってしまった――。
我慢しなきゃと思えば思う程思い出して感情が表に出て来てしまう。
「……泣いてるのに……。何もない訳ないじゃないですかっ。」
晃治くんの声が高ぶる。
「僕でよかったら話して下さいよっ。千晴先輩みたいにはいかないかもしれないけど……ほっとけないですよっ。」
千晴――。
名前を聞いただけなのにまた涙が溢れてきた。
会いたい………。
気持ちが押さえられなくてどうしようもなくなる。
でも後輩の晃治くんの前で弱い自分を見せたくなかった。
「ほんとに大丈夫だから……。忘れて……ねっ。」
そう言いながら歩き出した。
それを晃治くんがとめる。
「大丈夫に見えないですよっ。……ちょっと待ってて下さいっ。部室の鍵返して鞄持って来ますからっ。」
そう言うと走っていった――。
どうしようか少し迷ったけど、重く感じる足を上げて歩き出す。
ごめんね晃治くん……。
優しくされるのは嬉しいけど、晃治くんじゃないの。
優しくされたいのは……。
心の中で謝りながら校門を出て帰り道を進む。
「小楠センパーイっ。待って下さいよーっ。」
後ろから晃治くんが走ってくる。
もうほっといてほしいのに……。
「待ってて下さいって言ったじゃないですかっ。そんなに僕じゃ頼りないですか?」
追い付いて息を切らしながら言ってくる。
「そんなんじゃないの……。晃治くん家反対でしょ?私は大丈夫だから……ねっ。」
歩くのをとめないまま言った。
「小楠先輩があんなになるなんて全然大丈夫じゃないですよっ。……話せないような事なんですか?」
これだけ言っても心配してくれて引き下がる気配がない。
一時何も話さなかった。
その間晃治くんも何も言わずについてきてくれる。
その優しさが今は少し心地よかった。
「友達とね……千晴の事で喧嘩したんだ……。」
少し気持ちが落ち着いたのと、このまま晃治くんがずっとついてくるのも悪いと思って話す事にした。
「千晴先輩の事……で喧嘩……ですか……。」
晃治くんがこっちを向いて言ってくる。
「……でもね、解決したから大丈夫……。ただ悲しくなっちゃってね……。あんな所見られて恥ずかしいな。」
ほんとは解決なんてしてないし、全然大丈夫なんかじゃないんだけど……。
後輩の手前意地張らなくちゃ。
「そんなっ……。恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか。……ちょっとびっくりしましたけど……。」
晃治くんが少し照れながら言うのが少し可笑しかった。
少し笑顔になる――。
「だから……ねっ。もう大丈夫だから、晃治くんも早く帰らないと……。わざわざついて来てくれてありがとね。」
そう言って立ち止まると今まで歩いて来た道を指差した。
「……わかりました。今日は帰ります……。でも、小楠先輩のそんな顔見たくないんですっ。……また一緒に帰ったりしてもいいですか?」
優しいな……晃治くんは。
そう思いながら照れて言ってくれる姿に付き合い始めの千晴の姿を重ねる。
「駄目だよ。家反対なんだし。……その気持ちだけで充分。ありがとね。」
千晴がいなくなって一人で帰る帰り道が凄く淋しかった分、その言葉が嬉しかったけど甘えられない。
私の彼氏は千晴なんだもん――。
そう思った瞬間、めぐの言った言葉がまた胸を突き刺す。
『私千晴くんと付き合う事になったから……。』
また涙が溢れそうになる――。
「……家反対だって大丈夫です。また誘いますからっ。それじゃっ。」
それだけ言うと何も言い返す暇なく一気に走っていく。
もうっ……。
晃治くんの勝手な言い分なんかより今は千晴とめぐの事が気になって仕方がない。
めぐの嘘だよね……。
千晴……大丈夫だよね……私達。
信じる気持ちだけじゃ足りない――。
確かな繋がり、言葉がほしい……。
離れてる時間が長く過ぎていく程、お互いが少しずつ遠くなっていく気がした―――――。
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