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CrossRoad
交換日記

部活が終わって校門へ急ぐ――。

俺の姿を、めぐや穴井よりいち早く見つけた由依の顔がパッと笑顔に変わって大きく手を振って寄ってくる。


「吹奏楽って終わるの早いよな。待った?」


由依はめぐや穴井と同じ吹奏楽部に入っている。


「ううん。私達もコンクールがあるから最近はわりと遅いんだよ。」


とかいいながら待ってた時間は長いだろう。バスケ部はいつも終わるのが最後の方だ。


「ごめんな。待たせて…。」


「気にしないで。少しでも話したいから勝手に待ってるんだから。」



――それから教室での出来事とか、部活の話とか色々話した。


「はーい。そこいつまでも二人の世界にいない。そろそろ帰ろー。」


めぐが呼んでる。


由依と話してるとつい時間がたつのを忘れてしまう。


あの二人は由依に付き合ってわざわざ待ってくれている。

さすがに悪いと思った。


「うんっ。すぐ行くー。」


「そしたら、また明日な。あの二人にもいつも悪いな。」


「そう言っとく。なるべく待つ時は一人で待つようにするし。」


「それも、いっつもになるとさすがに気がひけるんだけどなぁ……。悪いし。」


「じゃあ会いたくないの?」

顔を近付けて覗き込んで言う。

真っ直ぐで……おっきな目――。


「そりゃ……、会いたいけど。」


勝ち誇ったような笑顔を返しながら笑う。


「なら、いーでしょ。待ってる。」


「わかった。」


――嬉しい。けどなんか照れる…。



「おーい。」

めぐがまた呼びかける。


「いけね。そしたらまた明日な。」


「うんっ。また明日。」



軽く手を振ってきびすを返すと家への帰り道を1人で歩きだす。



――俺と由依が付き合い始めてもう3週間が過ぎた。


人の噂は早いもので、といってもうちの学年は2クラスしかないが…、あっという間にみんなの知る仲になっていた。


彼女……かぁ。


今まで、【付き合う】という事がいまいちよくわからなかったが、わからなくてもとにかく一緒にいたいって強く思う。


それに、由依もストレートに気持ちを表現してくれるのが嬉しい。


付き合うっていいな。

毎日、満たされていた――。





2時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り終わると由依が入ってきた。

いつも由依が俺のクラスに来る。


最初に勉強を聞きに来てた名残もあるが、正直彼女の所に男がのこのこ行くのは恥ずかしい気がしていた。


「はいっ、これ。さっきの授業中に書いたの。後で読んでね。」


最近ちょこちょこルーズリーフ1枚に書いた手紙を可愛く折って持って来ていた。


「千晴くんもたまには手紙書いてくれたら嬉しいのに…。」

ちょっとふくれてみせる仕草がまたいい。


「たまに書いてるじゃん。」


「1回しか書いてない。まぁ、いいよ。それ読んでね。私、いい事思いついたんだ。」


何かふくませたような言い方――。

「次、移動教室なの。もういかなくちゃ。また後でね。」


「ああ、後で。」


もらった手紙をヒラヒラさせて出て行く後ろ姿を見送った。





先生が黒板に書いてるすきを見て、少し椅子を後ろにひいてさっきもらった手紙を開く。


『ただ今2時間目の数学中。どんどん難しくなってる気がする…。千晴さまさま、今度のテスト前もどうぞよろしく。――』


――まーた。なら今ちゃんと聞けばいいのに。



『――だから、今度から交換日記しない?そしたら千晴くんが毎日何思って過ごしてるか、とか1組であった面白い話とか色々知りたいの。
千晴くんがどーしても嫌って言うなら……あきらめるけど……。
ねっ。お願い。しよー。

  from yui』


――交換日記。


あきらめる訳ないって感じだよな、これ。


もう1回見ながら可笑しくなった。


別に嫌じゃないし、いっか―――。

手紙を元の形に折り直して制服の胸ポケットにしまい込んだ。





手紙に書いてあった交換日記にオッケーを出すと、実はもう買って、しかも昨日書いて来たらしい。


周りの目が恥ずかしいから、と放課後まで待って日記を受けとった。


手帳サイズでそんなに大きくない。これならいいかな、と改めて思った。


何気なく1ページ目をめくってみようとすると、


「だめーー。」

由依が日記をバッと取り上げる。


「これは帰ってから。……もうっ。恥ずかしいでしょ。」


焦ってる姿が可笑しくて笑ってしまった。


「可笑しくない。今日は千晴くんが書いて、明日持ってきてね。そしたら私が明日持って帰って書いて、明後日持ってくるから。」


「へぇー、そういう仕組みね。分かった。日記ちょうだい。」


手を出して笑顔で由依を見つめる。


「……渡したら、今見ようとするでしょ……。」


ばれたか。

「目が笑ってる。…ちゃんと帰ってから読んでね。」


「はーい。了解。」






机の電気をつけて交換日記を開く。


書かれてあったのは、先に日記買ってしまったけど、俺ならきっとしてくれるよね――。とか家で美依に日記の事馬鹿にされた――。とか色々書いてあった。

嬉しくて顔がにやけてしまったのは、締めくくりに『大好き』って書いてあった事だ。


――交換日記って……いいもんだな……。



文章の余韻に浸っていたが、ふっと身体を起こして2ページ目を開いて書き出した。


俺も最後は『大好き』で締めよう―――――。



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あきゅろす。
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