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CrossRoad
始まりの場所

ベランダから何気なく目に飛び込んでくる景色を眺めていた。


体育館の奥に見える木々もほんのり赤と黄色に葉を染め出し、全体の色相により深さを出しているようだ。


暑さも手伝って燃えに燃えた体育祭からあっという間に1ヶ月以上が過ぎようとしている。



『総合優勝 白組』


優勝したよなぁ――。ベランダからグランドを見ながらふと思いだす。


と同時に現実に引き戻す声が聞こえてきた。


「千晴ー、5限体育だぜ。そろそろ着替えようや。」


平田が教室の中から変わらない大きな声で呼びかけている。


振り返ると、早々と女子は隣のクラスに着替えに行ったのだろう。みんな出ていっていた。


「今日からバスケだっけ。いやー、楽しみだねー。」


教室に入るといつの間に来たのか、財津がにやにやしながら言ってきた。


「そうだな。どうせならバッシュ履いてしたいけど。」


俺も確かにバスケは楽しみだ。バスケ部連中はみんなワクワクしているように見える。



着替えが終わった連中からぞろぞろ体育館へ移動していく。



俺と伊東に財津もその後に続いて教室を出ていく。


ちょうど同じ時に隣のクラスから横田めぐみ(よこた)と穴井寛美(あないひろみ)、小楠由依が出て来た所だった。


3人は仲がいいみたいでいっつも一緒にいる。


「あー、千晴くん達。男子今日からバスケだってね。どう?楽しみなんでしょ。」


由依がピョンピョン跳びはねながら近付いてくる。


仕草が可愛い――。


よく話をするからか、俺はいつの間にか由依の事を好きになっていた。


「まあね。バスケおもれーもん。」

少し照れつつも言葉を返す。


「そうそう。きっつーい練習と違って試合とかいっぱいありそうだしな。」


試合が好きな財津らしい。


「私達はサッカーだって。やだなぁ。」

穴井がぼやく。


「もうっ。そんな事言わない。頑張るぞぉ。千晴くん達も頑張ってね。」


穴井やめぐと違って由依はやる気満々だ。


「まかせろって。そっちも頑張れよ。」


お互いの健闘を讃えて、みながみな思い思いの話をしながらそれぞれの授業に向かう――。





 キーンコーンカーンコーン――。

チャイムと同時に教科書とノートを閉じる。


さっ、ちゃっちゃっとホームルームやって後は部活っと。


なんて思ってたら――。


「千晴くん、めぐが呼んでるよー。」

後ろのドアそばの席に座ってる伊藤結季(いとうゆき)が声をかけてきた。


振り返るとドアから入って来る気配はなく、手招きしている。


「何ー。」


なんだろうと思いながら席を立ってドアまでいくと、教室の外に出された。


「ねぇ、永里くんって一応聞くけど、彼女いなかったよね。」


――珍しい奴が来たかと思ったらいきなり何の話だよ。


「いないけど。なんで?」


「じゃあ由依の事どう思ってる?」


なっ……んでそっちに話がいくんだよ。


「どうっ…て。めぐには関係ないだろ。」


ドアはちゃんと閉めてる。窓も開いてない。クラスの奴らには聞かれたくない話になってきた。


「関係なくない。由依は大事な友達だもん。由依と永里くん見てると煮えきらないっていうか……。由依どうしたらいいかわからなくて悩んでる。」


「悩んでる……?」


「そうだよ。はっきり言うけど、永里くん由依の事好きじゃないの?私は見ててそう思うもん。……だけどずっと同じ関係で……。でも今の関係を由依は崩したくないみたいで……動けなくて…悩んでる。」


「それって……、由依は俺の事が…嫌って事?」


「鈍感。どう考えたって逆でしょ。告白したくても出来ないって事よ。」


――マ…ジで?

一瞬どん底に落ちた気分がぐんぐん天に昇っていった。


「だーかーら、好きならちゃんと告白。由依待ってるんだから。それに、こういう事は男から言うべきでしょ。」


顔に出てしまったか?まくしたてられた。


――まぁ、確かにね。


だけど相手の気持ちがわかってりゃいいけど、わからないから言えねーんじゃん。


めぐに無言のつっこみを入れておく。


「そしたらホームルーム終わったら迎えにくるから。部活行かないで待っててよ。」


目が点になる――。


「はぁっ?言うって今日?」


「そっ。早い方がいいでしょ。あっ、先生来た。そしたら後でね。」


言うだけ言って隣のクラスにそそくさと帰っていった。


俺もとりあえず席につく。

――それにしてもいきなりとんでもない事になってしまった。


この後……?……言うのかよ…………。


気が重くのしかかる中、【起立】の号令で席を立つ―――。





「由依ー、連れてきた。そしたらお二人さん、後はごゆっくり。」


意味の理解しかねる言葉だけ残して今降りて来た階段をまた昇っていった。


連れて来られたのは体育館へ向かう通路がある、校舎の1番端の場所だった。


確かに放課後はこんな所通る奴はいないけど……。


「……待っ…た?…。」


言葉がうまく出てこない。心臓が口から飛び出しそうだ。


「…ううん…。……さっき来たから…。」

由依は少し左右に身体を振って落ち着かないみたいだ。


めちゃくちゃに緊張していたけど、少し、可笑しくなった。緊張も少し緩む。


「段々、話すようになって…、いつからかわかんないけど………。俺…、由依の事好きなんだ……。付き合って……ください……。」


――由依の目を見て言えた。


「うんっっ。私も……ずっと好きだったよ…。」


――笑顔がずっと可愛いって思ってきた。


今この瞬間の笑顔は……最っ高に愛おしい――――。



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