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CrossRoad
体育祭

肌がじりじり音をたてて焼けていくような日差し――。

動いてなくても汗が吹き出してくる。


雲ひとつ見えない真っ青な空――。



「ピッピッピッ、ピッピッピッ、赤組たっおっせー。ピッピッピッ、ピッピッピッ、黄組たっおっせー。」


応援の掛け声が競技をさらにヒートアップさせていく。


競技に出ている連中も自軍の応援に応えようとがむしゃらに頑張っているのが遠目に見てもはっきりわかる。


「中学の体育祭ってすげーんだな……。」


隣でダウンぎみの伊東につぶやくように話しかけていた。


「ホント、すごいよこの盛り上がり方は。俺もう駄目……。さっきの100メートルで死んだ。」


ぐたーっとしながら手を左右に振る。


「って、まだそれしか出てねーじゃん。まだ組体操と騎馬戦も残ってんだぜ。」


「騎馬戦は昼からだからなんとかなるなる。だから今はちょっと休ましてくれー。」


「だらしねーの。俺は他に選抜リレーも残ってんのに……。」


拳をにぎりしめてキリッとした声を出して言う。

「おうっ。我ら白組の為にしっかり働いてくれ。」


「自分は出ないからってほんっと調子いいのな。ほら、次組体操だから行くぞ。」


「もう少し休ましてくれー。」


悲痛な叫びを無視して、先に向かっている男子の後に続いて伊東を無理矢理引っ張っていく――。





――日が西に傾いてきたとはいえ、まだまだ日差しと暑さはおとろえる事を知らないかのようだ。


「3年の棒倒し、凄かったな。」


オバチンがテーピングテープを投げながら話しかけてきた。


「ああ。俺もやりたいなあれ。」

体勢をくずしながらも、なんとかテープを受け取る。


「ははっ。3年までおあずけだ。」


俺の足を指差しながら言葉を付け足す。


「朝巻いたやつ、もう緩くなってきてるだろ。これから俺ら選抜リレーがあるんだからちゃんと巻き直しとけよ。」


「分かったよ。」


「あと拓磨(たくま)と野田(のだ)にも渡しとかないといけないんだけど、何処にいるか知ってるか。」


――小野拓磨(おのたくま)。

――野田謙太郎(のだけんたろう)。


白組の選抜リレーを一緒に走るメンバーだが、見てない。


「さぁ。向こうで女子の尻でも眺めてるんじゃないか。女子のダンスだろ、今。」


「そうだっ。俺も見てー。」


走ってあっという間に消えてった。


「好きだねぇ。」


エロさ全開で相変わらずだ。


「何が。」


後ろから急に話しかけられてビクッとしてしまう。


白組のテントだから小楠美依と思いきやハチマキの色が違う。由依だ。


最初はあんまり見分けがつかなかったものだが、性格も、顔も、声も、確かに違う。



「びっくりしたぁ。どした。黄色がわざわざ白組まで。」


ほほを少し膨らまして言う。


「せっかく来たのにひどいなぁ。それより何が好きなの。」


足を前に出してテーピングを外しながら答える。


「ああ、オバチンが2年の女子のダンスがあってるからそれ見に走って行ったんだよ。」


さすがに尻をおっかけに行ったとは言えない。


「ふふっ。小幡くんエッチだもんね。ところでそれ何してるの。」


テーピングを巻き直してるのを指差して聞いてくる。


「これは裸足で走るから足の皮がむけないように巻いとくの。黄色も巻いてる奴いるだろ。」


「いるね。へぇー、それで巻いてたんだ。女子はみんな靴履いてるから知らなかった。巻いたら速く走れるのかと思ってた。」


由依と話してたら可笑しくなる。思わず笑ってしまった。


「ははっ。それで速くなるんならみんなやってるって。」


またほほを膨らませる。


「もうっ……。バカにして………。ねぇ、さっきの騎馬戦、凄かったね。いっぱいハチマキとってたでしょ。」


隣に座って膝を抱えながらこっちを覗き込んで言う。


その仕草にドキッとして思わず目を足のテーピングの方へ移す。


「そんな事ないって。3つ4つ位だろ。たいしたことないよ。」


「ううん、5個はとってた。かっこよかったよ。」


恥ずかしいし、そんな事言われると照れる――。

俺、顔赤くないかな。


「次、選抜リレー出るんだよね。私、応援してるから。頑張ってね。」


拳を握って言う。笑顔がかわいい――。


って組違うじゃん――。


でもそれが余計に嬉しかった。思いとはうらはらに、つい意地悪を言ってしまう。


「黄色応援しなくていいの。自分とこだろ。」


「いいの。永里くん応援したいんだから……。黄色も応援するけど……。頑張ってね。」


膝を抱える腕が一瞬キュッとしまったような気がした。


それと同時にバッと立ちあがって笑顔で手を振りながら走って行く。


――顔、赤かったかな……。日焼け……だけ……じゃない……のかな……。


てか意地悪言うだけ言って、何も返事せずじまいって……。


頭をポリポリかいて立ち上がる――。





――2番手の拓磨にバトンが渡って白は今2位。


第3走者の俺も緊張のピークだ。


周りの連中も速いし大丈夫か、俺――。


周りに目をやっていたら、ふと視界に由依の姿が目に飛び込んできた。


さっき何も言えなかったからか、緊張をふき飛ばす為か、由依がいる方に軽くガッツポーズしてみせた。


手を振り返してくれている。


頑張るか――。緊張はしているが、なんか知らない力が湧いてくる感じ。



拓磨が近付いてきた。走りながらバトンを受け取る。


ぐんぐんスピードにのるが、前の走者も早い。


トラックの一周なんてあっという間だ。

どんどんゴールが近付いてくる。


アンカーはオバチンだから、やってくれるはず。


2位との差をほとんどない位に詰めてバトンをオバチンに渡す事が出来た。


走りだした次の瞬間にオバチンが先頭にたった。


それと同時に沸き上がる白組のテント。


しっかり後続を突き放していく。さすがに速い。



そのまま見事にオバチンは1位でゴールテープを切った――。



「やったあー。」


拓磨が飛び上がって声を張り上げた。


「まっ、俺様のおかげだな。」

オバチンが俺達のとこに戻って来て言った第一声――。


相変わらずおちゃらけてる。


でも何より1位になったのが嬉しかった。



選抜リレー解散の号令を受け、白組のテントに4人で戻るのを待ち構えていた先輩、同級生達が次々手を出して叩いてくる。


痛かったが、その分嬉しさを倍増してくれた。


「やったな。」


オバチンが腕をかかげながら言う。

その腕に交差するように自分の腕を重ねる。


「ほんと、おいしいとこしっかりもっていってな。」


顔を見合わせて弾けるように笑いだす。


全身から吹き出す汗が、程よい高揚感と満足感で妙に気持ちよかった――。



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