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CrossRoad
想われても    【実菜】

 どうしよう……。


迷ってるうちに刻々と時間が過ぎていく。


先生が黒板に次々と文字を書いていくのをノートに映しながら悩んでいた。


洋太くん、最後ちょっと変だったな……。


さっきあった出来事を思い返す。


いつもならあんな風な別れ方をするコじゃないから気になった。


自惚れかもしれないけど、洋太くんには好かれているって気がする。


優しいし……。


いつも気にかけてくれている。


話ってなんなんだろう……?


私、別に様子おかしくなかったよね……?


急に部活に行かなくなった事かな?



考えてもわからない。


ただ、待っててと言われて待つのはいいのかって方が気になる所。


千晴はいないけど……。


一応伝えておいた方がいいのかな……?


そう思ってケータイの入った鞄を見る。


でもわざわざ言って何かあるって思われるのも嫌だし……。


咲智の言ってた事を思い出す。


ちょっと前までなら千晴を妬かせてやろうとメールで報せてたかもしれない。


でも今はそんな事して変な風に思われるのを避けたかった。



待たずに帰ろうかな……。


あーもうっ。

私こんなに優柔不断だったっけ?



いいっ。

話し聞くだけだもんっ。



キーンコーンカーンコーン――。


開き直った所でタイミングよく終了を知らせるチャイムが鳴る。


「よーし、今日の内容は大事だからちゃんと復習しとけよ。じゃ、号令。」


先生の言葉と同時にみんな席を立つ。


礼をすませると鞄を机に置いて教科書とノートをしまい込んだ――。






「すいませんっ。結構待ちましたか?」


昇降口に腰を降ろしてたら、走ってきたのか息を少しきらせながら言う洋太くんが目の前に来て言う。


「ううん。さっきまで友達と話してたし、たいして待ってないよ。」


洋太くんが気にしないように返事をすると、少し安心したような顔になった。


「そうですか。よかった。帰りながら話しましょっか。駅まで送りますよ。」


「えっ?いいよ、送らなくって。疲れてるでしょ?それより話って?」


洋太くんの家は駅方面だからいいのかもしれないけど、なんとなく二人で一緒に帰るのはよそうと思って口に出した。


「そう…ですか。……いえ、最近毎日部活に顔出してくれてたのにここ何日か顔出してくれなくなったでしょう?そしたらなんか元気ないみたいだったから気になって……。」


周りを見渡してから一息つくと話し始めた。


「そう…かな……?……私は全然元気だよっ。なんか心配させちゃったみたいだね。ごめんね。」


やっぱり気付いてた……。


心の中を悟られないように気丈に振る舞いながら笑う。



けど、気にし過ぎなのか上手く笑えてないのが自分でも分かった。


「……やっぱりっ、おかしいですよっ。何かあったんですか?僕でよかったら聞きますからっ。」


ちょっと……びっくりした……。


洋太くんの真剣な顔――。


勢いに負けてつい本音を言いそうになるのを何とか思い留まった。


「……ううん、ありがとう。これは私の問題だから……。気持ちだけで嬉しいよ。」


そう言って今度はちゃんと笑ってみせる。



「僕じゃ…頼りないですか……?問題って……そんな顔してるのにほっとけないですよっ。」


少し間があいて洋太くんが気持ちをぶつけてくる。


「そんな事ないっ。頼りなくなんか………。」


何て言っていいか分からなくて言葉に詰まる。


「……千晴先輩と何かあったんですか?」


私が何も言わないから洋太くんが口にする。


「辛い事……あったんですか?」


駄目だ……。

引いてくれそうにない……。


そう思ったら力が抜けた。


「何も……ないよ。千晴はいつも通り。ただ…私が淋しいだけだと思う……。ほらっ、千晴モテるでしょう?自分にあんまり自信…持てないんだ……。」


言い淀みながらも言葉を繋げた。


「自信……ですか?」


黙って聞いていた洋太くんがぽつりと言う。


「そっ。私よりも違う娘の方がいいんじゃないかな?……って。」


心配させないように明るく振る舞う。


「そんなことっ……ないですよ。実菜先輩可愛いのに……。優しいし……。」


最後の方の声が小さくなった。


照れたのかな?

私もそんな事言われたら照れるんだけど……。


「ありがとう……。だからね、不安なの。千晴が誰か違う人の所にいっちゃいそうで……。最近、会ってる時間もそんなにないから……。」


そう言って笑った。

でも、から笑いになってる……。


駄目駄目っ。

しゃきっとしないと。


そう思った時に洋太くんが口を開いた。


「だから……辛そうな顔…してるんですか……?」


「えっ……?そんなこと……。」


確かに辛いと思った事はあるけど……。


「そんな風にしか見えませんっ。辛いなら………辛いなら僕が………僕じゃ千晴先輩の代わりになりませんかっ?」


考えてながら言ってたから全部言い終わる前に言い返された。


代わり……?


「それは……。」


「淋しいなら、側にいますっ。辛いなら、辛いって思わないようにしていきますっ。実菜先輩が望む事は叶えますっ。」


下を向いて一生懸命に言っていて……その言ってくれた言葉が嬉しかった……。


私が千晴にして欲しい事だったから――。


「実菜先輩の事ずっと見てましたっ。今は千晴先輩がいるけど……僕との事、考えてくれませんか?」


これって……告白だよね……。


素直に嬉しい――。


洋太くんだったら本当に私を淋しさから開放してくれそう……。



だけど……。



千晴との今までの事が次々に頭の中を一気によぎっていく。


洋太くんはいいコだけど……私の中じゃやっぱり恋愛対象には考えられない。


それ以上に千晴の存在がおっきいんだもの……。



千晴の笑った顔――。


優しい声――。


以外と広い背中――。


抱きしめられた時の落ち着く胸の中――。



愛しい――。



「嬉しいよ………。そんな風に私を想ってくれて。でもね、私はやっぱり千晴が好きなの……。千晴じゃなきゃ駄目なんだぁ……。」


黙って返事を待ってる洋太くんに私の今の素直な気持ちを伝える。


目は……見れなかった。


「……それは……分かってます……。ただ……覚えてくれてたら…それでいいです。」


さっきまでと違って力の抜けた声が返ってきた。


「ごめんね……。」


それしか言えない。


「謝らないで下さいよっ。千晴先輩…かっこいいし、優しいし……。僕じゃ代わりにならないのは分かってましたから。」


本当にいいコ――。


「そんなこ……。」


「分かってますからっ。気にしないで下さい。ねっ。」


言いかけた途中で洋太くんの言葉がすかさず返ってきて、その勢いに何も言えなくなってしまった。



「大分、時間経っちゃいましたね……。帰りましょう?駅まで送りますよ。」


黙ってると、洋太くんが帰宅を促してきた。


一緒には……帰ったら駄目だよね……。


「うん。でも大丈夫だから。先に帰って。」


言った瞬間の洋太くんの淋しそうな顔が胸をえぐる。


ごめんね……。


「そう…ですか……。わかりました。先に帰ります。でも気をつけて下さいね。あっ、部活にも時々は顔出して下さいよっ。……それじゃ……。」


最後に元気に振る舞ってくれて……でも名残おしそうな顔をして……その態度に心を揺らされるけど、ぐっと我慢する。


「うんっ。洋太くんも気をつけて。またね……。」


今私が返す事の出来る精一杯だった。



手を振って走り去って行く姿を見送りながら心の中で呟いた。


ごめんね……。


ありがとう……。



それから私も駅に向けて歩き出した――。





淋しいけど……辛かったりもするけど………私はやっぱり千晴が好きだから……。



想われる事は嬉しいけど……それに応えられない事は辛い。


千晴……。


会いたいよ……。



見上げた薄紫と濃紺の空との間に星が小さく瞬いていた―――――。



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