[携帯モード] [URL送信]

CrossRoad
学期末

――キーンコーンカーンコーン。

チャイムと同時に授業が終わって、先生が教室を出ていく。


それと同時に後ろの扉が開いて誰かが飛び込んで来た。


「永里くん、ここ教えてここっ。次の授業であたるの。全然わかんなくって。」


小楠由依だ――。

数学の教科書を広げて問題を指差す。


「またっ?しょうがないな。紙かノート持ってきた?」


「やっさしー。はいっ。」


しっかり用意してきたノートを開いて渡してくる。


「由依ー。また永里くんに聞きにきたの?バカねー。」


美依が近付いてきながら自分の妹をちゃかす。


「何言ってんの。美依の方が悪いじゃない。美依こそ永里くんに教えてもらった方がいいんじゃないの。」


「私はいーの。別に勉強出来なくたっていいもん。」


「はーい。喧嘩しない。出来たよ。」

二人の雲行きがあやしくなる前にノートで間を遮った。


「さっすが。どうやって解くのか教えて。」


由依が向きなおって聞きくので、1からなるべくわかりやすいように解き方を教えてあげる。


「わかったぁー。ありがとう。永里くんさまさまっ。」


「調子いいんだから。ほら、もうすぐ次の授業始まるよ。」


「ホントだ。ありがとう。またねっ。」


満面の笑顔で手を振りながら自分のクラスに戻っていく由依を見送る。


いい笑顔――。



「よく来るよねー由依ちゃん。永里くんも大変だね。」

知らない内に横にいた清水美帆(しみずみほ)が話しかけてきた。


「ああ、教えるって約束してたから。まっ、数学ならなんとかね。」


「数学かぁ。私もわかんない時教えてもらおっかな。」


清水美帆は頭いい。性格も明るくていつも女子の中心にいる娘だ。


「清水さんも?頭いいやん。聞く必要ないだろ?」


「そんな事ないよ。それとも私には教えてくれないの?」


「それこそそんな事ないよ。俺でわかるんなら教えるよ。」


「美帆ちゃん、永里くん困ってるって。由依も時間とっちゃうんだから、あんまり永里くんの休み時間減らしたらかわいそうだよ。」


美依って以外と優しいんだな――。

思ってもない言葉が美依から出てきたから少しびっくりした。



――と思うと同時にチャイムが鳴った。


「そうだね。でもホントにわかんないとこはよろしくね。」


答える間もなく清水は自分の席に戻っていった。


――まっ、いっか。


先生が入ってきて、【起立】の号令でみんな一斉に席を立つ―――。





「終わったぁー。」


部室を出た伊東が叫ぶ。


「ほんっと毎日毎日よくしごいてくれるよな。」


ガタイがいい、というより少し丸い財津賢(ざいつけん)が部室の鍵を閉めながら言う。


「財津はもうちょっとしごかれたがいいんじゃねーの。体力ねーし。」


からかいがてら本音を少し出しておいた。


「うるせーよ。千晴は体力ありすぎ。陸上の方であれだけ走らされて、それから部活なんて人間じゃねーよ。」


「やらなきゃなんねーんだから仕方ないだけ。陸上やってる連中はみんな同じだし。」


「いーから早く鍵返してこいよ。帰ろうぜ。もうくたくただよ。」

伊東が急かす。





セミのなく声が響きわたる――。

下校中の夏の空はまだ深い夜の闇に覆われる前で、青さと黒さの交わる色合いは神秘的で言葉にあらわすのがもったいない位だ。



校門で財津と別れ、伊東と同じ帰り道を歩き出す。


「もうすぐ夏休みだよなぁ。部活休みの日、何すんだ。」

ふいに伊東が口を開く。


「部活休みでも陸上あるからなぁ。特に何も。あー、でもお盆は地元に帰るかな。」


「久留米だっけ。久しぶりに帰るから前の友達にも会えるし楽しみだろ。」


俺は首を振った。

「久留米は前に住んでた所。地元は田川ってトコ。ばあちゃん家でゲームとかして遊ぶ位だよ。」


「そうなんや。てかどうだ玖珠は。もう4ヶ月たつし、なれただろ。」


確かになれた――。


時間とは不思議なものだ。

あんなに引っ越すのが嫌だったのに、時間を重ねるにつれ新しい友達ともすっかりうちとけてこうして並んで帰っている。


「気使ってくれてんのか。気持ち悪いからやめとけよ。」


仲のいい友達が出来て嬉しい気持ちを悟られたくなかった。

ついふざけた事を言ってしまう。


「なっ……、気持ち悪いって、お前なぁ……。」


「ははっ。冗談だよ、冗談。なれた。部活と陸上はさすがにきついけど、楽しいよ。」



――よかった。ここにきて、前と同じに、それ以上に心許せる人達に出会えて。



手を振って伊東と別れ、家への帰路につく。


吸い込まれるような夏の空を見ながら心に芽生える思いをかみしめる。



新しい所でもちゃんと自分の居場所がここにある。


その実感が、今確かにする―――。



[*前へ]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!