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CrossRoad
気付かなかった  【実菜】

 ホームルームが終わってみんな一斉に席を立つ。


クラスに一気に騒々しさが伝染して広まっていく。



「ねぇ実菜。あんたまた部活に顔出すの?」


いつの間に側に来ていたのか、咲智が不意に質問を投げ掛けてきた。


「えっ?うん。補講まで時間あくし、そのつもりだけど……。何で?」


特に何も考えずに答えると咲智の顔が一瞬曇ったような気がした。


「まぁ……私が口出す様な事でもないんだけどさ……。実菜、前みたいに千晴にべったりじゃなくなったじゃない?そりゃ千晴がバイトに忙しいってのは分かるけど……。あー、とにかくあんまし部活に顔出すの、よくないんじゃないの?」


咲智が言葉を選びながら話すのがちょっと珍しい。


いつもなら思った事をズバっと言うから。


何かを言いにくいのはなんとなく分かったけど、今のじゃ意味がよく分からなかった。


「べったりって……。まぁ千晴最近特に入る時間増やしたみたいだから、忙しい上にきつそう……。でも何でそれが部活に顔出すのと関係あるの?」


今度はあからさまに困った様な顔と同時に深い溜め息をついた。


「千晴も千晴だけど、あんたも結構なもんだね……。千晴と別れたいの?」


えっ……?


いつも驚かされるけど、また突拍子もない事を言い出す。


「何よ突然。別れたい訳ないじゃない。」


「じゃあ聞くけど、千晴は夏休みに体験入学もかねた旅行に行く為に今頑張ってるんだよね?」


いつになく真面目に聞いてくる。


「そうだよ。」


「それは今しか出来ない事だから当たり前よね……。その間あんたは千晴が相手してくれないからって毎日後輩のコの所に行ってていいの?」


途中で一息ついたかと思ったら一気にまくし立てる。


正直ドキっとした……。


「私…は、ほらっ、マネージャーだったんだから気になるじゃない?別に洋太くんに会いに行ってる訳じゃないよ?」


さっきとは違ってストレートに聞いてくるもんだから返答に困る。


慌てた感じが伝わったかな……?



私の返事を聞いて今度は冷たい目で見てくる。


「……私は誰も一人を指して言った訳じゃないんだけど……。」


「えっ……?あっ………。」


咲智の質問を思い出して言葉につまる。



「あんたさぁ、自分で自覚してんの?」


「それは…………。」


言葉が出て来ない。


自覚――。


それは多分……してる。


今さっきドキッとしたのはズバリその通りだから。



そしてその淋しさを無意識の内に洋太くんで埋めようとしてたんだ……。


洋太くんはいつも私に優しく接してくれるから……。


それに甘えてる――。



「それを見て千晴が何も感じないとでも思ってんの?優しいから許してくれる?……もしかしてそのコの事好きなの?」


考え込んでしまった所に咲智の言葉が胸に突き刺さって、思わず顔を上げて咲智の目を真っ直ぐ見た。


「いいコだけど……恋愛対象じゃないよ。千晴……後輩のコ達の事可愛がってるし、弟みたいに思ってるんだと思う……。妬いたりとか……なさそうだよ?」


もしかして洋太くんとか後輩のコ達でも、千晴は実は妬いたりしてるのかな?


咲智が言った事で、言いながら言葉とは違う考えを頭によぎらせる。


「ならいいけど、分かってないね。男はなんだかんだ言って自分のものにちょっかい出されるのは嫌なもんなんだよ。」


さすがに年上と付き合ってる分……というより経験の差なのかな?

言う事が大人びている。


「でも……。」


千晴はやっぱり違う気がした。


「全然分かってないのね……。二人の問題だから別に言うつもりなかったけど。千晴……帰り際に、実菜が後輩のコと話してるのを遠くからよく見てたよ。私にはあの顔は楽しそうな感じには見えなかったけど……?」


えっ?


嘘……?


「ホントに?」


千晴が見てたなんて全然気付かなかった。


「嘘言ってどうすんのよ。ただでさえバイトで疲れてるっぽいのにそんなトコ見るのなんて私だったら嫌だね。千晴が可哀相。」


「そんな……。」


だって私の前じゃそんな態度見せた事ないもんっ。


わからないよ。


それに、それなら千晴だって似たような事してる。


多分何も考えてはないんだろうけど……。



「私は実菜好きよ。それに千晴もね。二人が一緒にいるのを見るの好き。いい雰囲気だもん。だからそれが崩れるのは嫌なの。」


咲智がそんな風に思ってたなんて知らなかった。


「………。」


何て答えていいか分からない。


「もっと…ちゃんと捕まえとかないと知らないよ?」


知らないって……。


「どういう事……?」


「会う時間が少ないからって千晴以外に逃げるなって事。千晴……離れてっちゃうかもよ。それで千晴が他の娘に盗られてもいいの?」


間髪を入れずに答えてくる。


「そんなの嫌だよっ。」


私も反射的に言葉が出る。


「千晴、私から見たら変なフェロモン撒き散らしてるからね。割とモテるでしょ?」


「うん……。多分。結構……。」


心あたりはある。


もしかしたら知らない所で好きって思ってる娘もいるかもしれない。



「だったらもっと千晴との時間作りなさいよ。前みたいに……。」


それが出来たらどんなにいいか……。


「そうしたい……けど、私も少し辛かったりするんだよ?」


「辛い?何かあったの?」


咲智が少し驚いた顔をした。


「最近、私と居てもあんまり楽しそうじゃない……っていうか、他の人と一緒にいる方が楽しそうな感じなんだもの……。」


「そうなの……?やっぱり後輩の所に行くの結構気にしてるんじゃないの?」


やっぱりっていう顔をする。


「それはわからないけど……。」


気にし過ぎなのかもしれないって思ったけど、咲智の話を聞いたらそんな気がしてくる。


「何にしても千晴とちょっと話しなっ。グチグチ悩むよりか話した方が早いって。」


咲智ならすぐそうしそうだ。


私もそれが簡単に出来れば楽なんだけどな……。


「うん……。頑張ってみる。」


言ったとたん大きな溜め息をつかれた。


「頑張るって……。まっ、実菜らしいかっ。んじゃお節介はおしまいっ。ねっ、補講の前に売店行こっ。コーヒー飲みたい。」


パンッと一度手を叩くと、明るい声で誘う。


「そうだね。」


夕方過ぎと言ってもまだ日はあるし、何より暑い。

すぐ喉が渇く。



聞くが早い。

鞄に財布を取りに行ったかと思うとすぐ戻ってくる。


「よしっ、行こっ。」


さっきまであれこれ言ってたのを忘れたかの様に言う。


咲智に続いて席を立ったが、頭の中は千晴の事でいっぱいになっていた―――――。



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あきゅろす。
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