[通常モード] [URL送信]

CrossRoad
時間が合わない  【実菜】

 電車を降りて家路につく。


夏真っ盛りの空は時計の指してる時間の割に以外と陽がある。


段々と夜の闇に溶け込んでいく様は綺麗に瞳に映すが、長いようでいて一瞬。

なぜか儚さのようにもとれる。


そう思うのは自分の今の気持ちを映しているからなのかな……。


「ふぅー……。」


家に続く坂を登り始めた所で溜め息が出た。


坂を登るのがきついからじゃないのは分かってる。


最近千晴と会う時間が少ない。


私はまだ進路はちょっと悩んでるけど、大学受験だから今放課後は補講ばっかり。


千晴は夏休みに大分の友達と体験入学をかねた旅行に行くんだってバイトばっかり。


少しでも長く働く為に学校終わったらすぐ帰っちゃうし。


私達のクラスの先生ホームルーム長いんだもん。

何故か最近特に。


そのせいでここの所放課後に千晴と話せないし……。



「ただいまー。」


玄関を開けると自分の帰宅を家族に報せる。


「おかえりっ。調度よかった。ご飯出来た所。もう食べる?」


廊下にひょいと顔を出した母親が言う。


「うん、食べる。鞄置いてくる。」


考え事の真っ最中で家に着いたのもあって、返事が素っ気なくなってしまった。


が、母親は特に気にはしていないみたいだった。


「そっ。ならよそっておくから着替えたらおいで。」


それだけ言うとまたひょいと台所に消えた。


何も答えず自分の部屋に向かう。


答えなかったというより別の事で頭が埋まってしまっていた。



千晴、私とあんまり一緒にいなくても別に何とも思わないのかな……?


鞄を机に置くと制服のリボンに手をのばす。


昼休みとか話すのは話すけど別に千晴の方から来る事なんてほとんどないし、あっても用事がある時だけ。


クラスの男友達といるのが楽しいのかお昼も前みたく一緒に食べるのもほとんどなくなった。


校則違反なのに昼休みになるとクラスの友達と校外に出てっちゃうし……。


スカートをおろすと椅子にかけてあるジーパンを取る。


千晴……私の事どうでもいいのかな……?


そう思った所で首を振った。

そんなの嫌っ。


それに……一緒にいてくれる時は今までと何も変わらない。


優しくて、ほっとさせるような空気で私を包んでくれる。


居心地がいい――。



だけどその時間が今は少な過ぎて淋しい。


私だって勉強があるからその時間を裂く訳にはいかないのは分かってる。


父親がいない中私をここまで育ててくれた母親の期待にも答えなくちゃって思うし。



大体千晴はバイトし過ぎなのよっ。


なんとも言えない気持ちを頭の中の千晴にぶつける。


部活も終わって、まぁ受験勉強はしないといけないけど……せっかく時間のある夏休みの一番の楽しみが私とよりも友達の方なんてっ。


考えるといらっとしてしまう。



洋太くんだったらきっともっと私の事考えてくれると思うのに……。


そう思ってはっとした。


いけないいけないっ。

最近放課後に千晴がいないもんだから、つい教室から見える体育館が目に入って部活を見に行く回数が増えた。


行くたんびに洋太くんが必ず話しかけに来てくれる。


淋しさを埋める為に洋太くんを使ってるような気がして嫌になった。



最初はよく話しに来てくれる洋太くんと一緒にいると千晴が妬くかな?って思って接してた。


でも妬いてるのか妬いてないのかよくわからなくてつまんなかったっけ。


洋太くんは千晴からすれば中学からの後輩だから弟みたいに見えるのかな?って思ったっけ……。


すっかり着替え終わると、制服をハンガーにかけてベットに腰を下ろした。


洋太くんは千晴の事すっごい慕ってるのが分かるのがまた可愛い。


千晴の事カッコイイカッコイイって言ってたっけ。


私の事も可愛いって言ってくれて……。


思い出すと顔が緩んだ。



一緒にいると和むんだよね。

気が楽になるっていうか……。



千晴の事考えてる時は苦しくて……。


それ以外の時の方が安らぐなんて……。



嫌いな訳これっぽっちもないんだけど……。


淋しい……。


辛い……のかな……。


なんか……違うのかな……。



どうしたらいいのか分からない。


でもまだ夏休みまでもまだ長いし、これからもっと淋しくなるかも……。



「実菜ー。まだー?」


母親が呼ぶ声が聞こえてはっとする。


「今行くー。」


まとまりかけた考えをとりあえず置いてご飯を食べる事にした――。






好きだから会いたい――。


もっと愛されたい――。


誰もが持つ気持ちだが、側にいるがゆえに想いが自分と違う様な気がして仕方がない。


だから――。



実菜の頭の中では一つの決断をしていた―――――。



[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!