CrossRoad
双子
「暑いな……。」
朝からこれでもかと照り付ける日差しの中、やっとの思いで校門までたどりつくと思わず言葉がもれる。
周りの木々に生い茂る深く濃い葉々も風に揺られ、照り付ける日の光をあちこちにバラまいている。
人の思いと共に季節も移り変わっていく。
「おっす。今日も張り切って行こうぜ、千晴っ。」
後ろからふいに背中を叩かれ反射的に振り返る。
「オバチン…。このくそ暑いのに元気やね。」
小幡亮(おばたりょう)――。
隣に中嶋明(なかしまあきら)の姿も目にとまる。
オバチンは『まぁーた』、って顔して言葉とは違っておちゃらけて言葉をつなぐ。
「今日も陸上の練習入ってるだろ。大会近いんだから気合いいれろ。」
いっつもおちゃらけてて人あたりもいい。
少しエロいが運動も出来てクラスの人気者って感じだ。
「分かってるって。今日も死にそうな練習するんだろうなぁ。」
「まっ、そうだろうな。頑張ろうぜ。」
明がなだめる感じで答えてくれた。
明は面白いし優しい。
森垣中には陸上部ってものはない。
しかし、森垣中は陸上が強くて有名な学校でもあった。
各部活から運動の出来る奴を集めて大会前は集中して練習するのだ。
オバチンは同じクラスだが、明は隣のクラス。二人とも野球部だ。
4月の終わりにあった校内記録会で優秀な成績を納めたメンバーが集められて陸上の練習をしている。
オバチンも明も、そしてなぜか俺も、そんなによかったか?と思いながらも選ばれて練習するうちに仲良くなった。
「早く行くぞ。暑くてたまらん。」
オバチンが前を歩きながら下駄箱に消えていった――。
――教室の前に人だかりが出来ている。
オバチンが先に、何だろうと思って俺と明が後に続く。
「げーーっ。やっべーよ俺ー。」
平田の馬鹿でかい声が廊下に響いた。
「何が。」
人ごみの後ろから声をかけて、掲示板を覗き込んだ。
「あっ、千晴。中間の順位が出てんだよ。やべーよ俺、下から3番目。かあちゃんに言えねーよ。」
「そりゃーやべーね。」
平田頭悪いんだ。悪いと思いながらも少し可笑しくなった。
「げーーっ。何じゃこりゃ。」
今度は隣でオバチンが声をあげる。
「千晴…、お前って頭いいんだな。」
そう言葉をつないで掲示板を指差した。
そういうオバチンは5位の所に名前がある。
頭もいいんだ。反則だな。
もう少し右に目線をずらす。
『1位 永里千晴』
自分でも目を疑った。
「うわっ。1番だ。」
「うわっ、1番だ。じゃねーよ。お前かわいくないやっちゃなー。順番代われよ。」
「平田と?下から3番はやだな。」
「こいつっ。」
カバンがあるのも構わず腕を首にまわしてきた。
じゃれあってると急に話しかけられた。
「永里くん、あったまいーんだね。1番なんてすごいっ。今度教えてよー。」
振り返ると小楠美依(おぐすみい)が立っていた。
「小楠さん…。そんな…。マグレだよ。たまたま。」
そう。たまたま1番になっただけ。嬉しいのは当たり前だが、変に目立ってしまって恥ずかしかった。
「そんな事ないよ。私なんかより全然いーんだから。約束。」
さすがにそこまで言われると悪い気もしない。
そして何よりそんなに真っすぐ見つめられると男としては弱い。
「そんなに言ってくれるんなら…いいよ。勉強くらい、教えるよ。」
照れる――。
とりあえず言葉をしぼりだした。
「ホントー?やったぁ。約束だからね。分からないとこ、ちゃんと教えてね。」
人差し指をたてて顔を近付けてくる。
「約束…するよ。」
「ありがとう。優しいんだね。美依に聞いてた通りの人…。私、由依(ゆい)の方だから。よろしくね。」
舌をペロッと出して笑った――。
――笑うと可愛いな。
言葉だけ残すとそのままひるがえして隣のクラスに入っていった。
隣のクラス――。
頭の中で言葉が反芻する。
『美依に聞いてた――。』
『由依の方だから。よろしくね。』
――意味が分からない。
俺の時間が止まっていたのを動かしてくれたのは、いつの間にそこにいたのか、伊東だった。
「千晴って…双子見るの初めてか。」
俺の無言の疑問を察してか、伊東がなんともわかりやすい答えをくれた。
頭の中で『ポンッ』と何かが弾けるように理解出来た。
「双子………。ああ…初めて……会った…。」
確かに…言われれば少し由依の方が目が大きいのかな…。
「でも、初めてみたらわかんないよ。髪型も一緒だし、うちのクラスの小楠さんだと思ったから。」
「慣れるよ。全然別人なんだから。ほら。クラス入ろーぜ。もう先生来るぞ。」
「ああ。」
伊東に続いて教室に入る。
目でくるっと教室を見わたすと、小楠美依の方がちゃんとそこにいる。
双子…かぁ……。
チャイムがなってみんな席に着く。
俺も慌てて席に着いた。
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