CrossRoad
待ってる…
星が夜空を満遍なく覆う中、一時その場から動けずにいた。
あんなに泣くなんて……。
実菜があんな態度とった事なんて一度もなかったから正直びっくりした。
そしてそれと同時に、実菜は大丈夫って自分で勝手に納得してとった行動が歯痒くてしかたなかった。
実菜は俺以外今まで付き合った事がないって言ってた。
俺は実菜の過去にヤキモチ妬いたりする事なんてないけど、よく考えたら実菜にはあるんだ。
そんな風には振る舞わなかったけど、写真みた時だっていい気はしなかったはずなのに……。
自分の馬鹿さ加減に腹が立った。
いつまでもそこにいる訳にもいかず、取り敢えず家路につく。
ゆっくり……どうしたらいいか考えながら……。
風呂に入ってさっぱりした後、入れてもらったコーヒー片手に部屋に行く。
身体はさっぱりしても心の中はぐちゃぐちゃのままだった。
コーヒーをテーブルに置くとベットに身を投げる。
ちゃんと話すっていっても……俺自身がいいようにしただけだからな……。
実菜にとっては何も面白くない事を説明しなくちゃなんない……。
だけどこのままは絶対嫌だっ。
ちゃんと全部言って謝ろう……。
別れたり……しないよな……。
どう考えても悪い方にばかり考えがいく。
あーっ、もうっ。
傍にあった枕を拳で叩く。
それと同時にケータイが鳴ってびっくりして跳び起きた。
実菜……?
慌ててケータイを取ると名前を確認した。
『由依』の文字がディスプレイを流れていく。
普通なら着信があればかけ直す方だが、実菜とあんな事になった手前、由依と話す気になれなかったからそのままにしておいた。
これで三回目――。
一向にコールが鳴りやまないから仕方なく通話ボタンを押した。
「もしもし……。」
なんとも力の入らない声が吐き出される。
「あっ、千晴?ごめんね、夜遅くに……。」
由依の言葉で時計に目をやる。
もう11時半になろうかしていた。
随分時間が経ったんだな……。
考え事をしていたせいで時間の感覚がおかしかった。
「いや……いいよ。どうした?」
思っきり落ち込んでるのがそのまま声に出てしまう。
大体由依と話す事自体が実菜に申し訳なくて心苦しい。
「あっ、いや………テスト今日までだったよね?どうだった?」
俺の態度に困惑してるのか、当たり障りない話題を持って来る。
「別に……普通かな……。」
つい返事がぶっきらぼうになる。
大体そんな事聞く為だけに電話してきたのかよ……。
そう思ったらイラッときた。
「そっか……。」
由依が戸惑っているのが今度ははっきり分かる。
でも、自分の感情を抑えられなかった。
「それだけか……?電話……。」
「えっ……いや、あのね……メアド教えてくれないかなって思って……。テスト期間中は邪魔しちゃ悪いと思って今日電話したんだけど………。千晴、何かあった?」
流石に由依も俺の様子がおかしいのに触れてくる。
ああ、あったさ……。
「彼女と喧嘩したんだよ。」
「あっ……それで何か素っ気ないんだ。」
理由の知らない由依が簡単に言うのにまた苛立ちが増す。
何で俺は電話とるかな……。
「由依の電話が原因なんだよ……。」
自分の気持ちに整理が着いてないのもあるからか、つい口にしてしまった。
由依が悪い訳じゃないって分かってるのに……。
「うそっ………。どうして……?」
動揺した声――。
そんなの考えたら分かるだろっ。
「由依が……元カノだからだろ。」
「そうっ……だよね……。嫌……だよね……。私の事、知ってるのっ?」
不意に思い付いた質問なんだろう。
声が上擦っている。
「知ってるよ……。前に聞かれた時に話した。」
「そうなんだ……。なんか………ごめんね。」
謝られても、どうしようもない。
大体、全部俺がまいた種なんだから由依が謝る事もない。
由依にあたってた自分がまた腹立たしかった。
「謝んなよ。俺が悪かったんだから。軽々しく由依に番号教えてたのは俺なんだし。電話していいっても言ったしな……。」
「だけどっ……。私がまた電話したから喧嘩になったんでしょ?……ほんとにごめん……。でもっ、私は話せて……番号教えてくれたからあの時の理由が聞けて……だからよかったって思ったよ。」
それはそうかもしれないけど……。
それはそれだよ。
俺は今実菜と付き合ってて……あんなに泣かせて……。
「ごめんな……。俺も理由が分かったのはよかったよ。だけど……俺……今付き合ってるから……。今の彼女が大事なんだ……だから……。」
言いにくい……。
けど……ここで終わりにしないと……。
「それって……もう電話しちゃ駄目…って事……?」
察した由依が先に口にする。
声が少し震えてる気がした。
「うん……。」
ごめん由依……。
「メールも……駄目だよね?」
「ごめん……。」
由依の声を聞いてたらそれしか言葉に出来なかった。
「これで電話切ったら…………終わりって事だよ…ね……。二度と話せな……い?」
電話の向こうで鼻をすする音が聞こえる。
涙声の由依の声に胸が締め付けられる。
だけど……。
「ごめん……。」
俺も言葉にするのがやっとだった。
俺の返事と共に、とうとう泣き声が通話口を通って耳に届いた。
「…ひっく……ぐすっ……。最…後なら…ぐすっ……聞いて…ほしいの……ひっく……。」
「うん……。」
泣かないでくれよ……。
辛い……。
「私……千晴と別れ…ぐすっ……た後も忘れられなくて……。ずっと……ぐすっ……。勇気…出して…手紙……書いて……ぐすっ……。そしたら返事きて……嬉しく…て……ぐすっ………電話した…ら……千晴変わら…なくて……ぐすっ……。だけどやっぱり……彼女がいて……ひっく………諦めなきゃっ……て……。でもっ……ひっく……でもっ……ひっく……駄目…なの………。諦め…きれない…よぉ。ぐすっ……いつか……いつ…か……ひっく……でいいから………待ってたら……駄目……かな……?」
泣きながら一生懸命言葉にする由依に思わず気持ちが揺れそうになる。
会ってないのに……二年以上もずっと……。
けど……。
応えられない。
きっと、突き放してやる方が由依の為――。
「駄目……だよ。俺の事は……忘れろ………なっ?」
絞り出した言葉。
由依の事は嫌いじゃない。
別れた理由を知った今、むしろ昔の気持ちが甦って……好き……だ。
だけどそれ以上に実菜の事が好きなんだ……。
どうしようもない。
「忘れるの……ぐすっ……出来そうにない…な……。ぐすっ……いつかでいいの……。覚えてて……。私…ずっと……待ってる……から。」
少し落ち着いた気がした。
さっき程狼狽していない。
それにしても……変な所で頑固なのは変わらないな……。
「わかったよ。だからもう泣くな。」
「へへっ……ぐすっ……。みっともないね……。千晴……優しい。好きになって……ほんとによかった……。」
笑った声に少し安心した。
「優しくなんかねーよ。」
「ううん……。私は知ってるからいいの……ぐすっ。……じゃあもう切らなきゃ……ね……。」
「ああ……。」
これでもう話す事がなくなるんだと思ったら……淋しくなる。
「忘れちゃ……駄目だよ……。ぐすっ……それじゃ………さよなら……。」
「うん……。じゃあ…な……。」
さよならって言葉が胸を締め付けた。
由依が電話を切るまで待つ。
ツーツーという音が耳に届いた所で通話をオフにした。
ごめんな……。
ありがとう……。
色んな事を思って……切れたケータイをじっと見たまま動けなかった――。
二年前は誰よりも好きだった――。
その相手にこんなにも思われてるのに今は何も応えられない。
それどころか繋がりさえも奪う。
辛い――。
だけど、それ以上に思う人の為には仕方がない―――――。
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