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CrossRoad
言葉の意味  【実菜】

 朝は強い方だけど、こんなに気持ちが滅入る事なんてそうそうない。


原因は明らかだった――。


電車に揺られながらまた昨日の事を思い出す。



最近って言ってた……よね……。


ずっと前からじゃないって事だけが救い……かな。


けど、いつからだって私に内緒で元カノと繋がってた事には代わりない。


黙ってた事がいらだたしさに拍車をかける。


前の私だったらこれ位の事でこんな気持ちになったりしなかったのに……。


私……千晴がすっごい好きなんだ……。


改めて思い知らされた気がした。


だからこそ許せなかった。


いい思い出じゃないなんて言いながら何で今頃になって電話したりするのよ?


ムカつくっ。


昨日ベットの中でちゃんと話聞こうって思ったのに、イライラしてその気持ちが薄れていった。



あれこれ考えているうちに駅に着いてみんな降りていく。


いつもの様に流れにそって学校へ向かった――。






短い休み時間も昼休みも、つい千晴を避けてしまった。


困り果てた千晴の顔を見るとちょっと可哀相な気もしたが、まだ心の準備が出来てなかった。


帰りまで待って。


心の中で謝りながら今日を一日過ごしていった――。






部活が終わって千晴が着替えるのを待つ。


何時もの様に一緒に帰る為――。


心の準備はしたつもりでも、やっぱり勇気が出て来ない。


聞きたいけど……聞きたくない……。


色んな葛藤の末、結局待たずに帰る事を選んだ――。






冬の一人の帰り道は寒さを余計に感じる。


いつもは千晴が隣にいて、たわいのない話が駅までの道のりを短いものに変えてくれる。


どんなに疲れてる時だって一緒に帰ってくれた。


優しい千晴。


淋しいな……。



そう思った時、急いで近付いてくる足音が聞こえた。


と同時に腕を掴まれる。


「実菜……。」


息をきらして言う千晴の声に力が入っていた。


「千晴……。」


全然驚かなかった――。


むしろ千晴ならきっとそうしてくれるって心の何処かで思ってた。


「避けんなよっ。ちゃんと話…させてくれよ……。」


昨日みたいに私が抵抗しないのが分かると、言葉も自然と落ち着いていった。


「ごめんね……。なんか、聞くのが恐くって……。」


自分でも不思議な位落ち着いていた。


あんなに苛立ったりムカついてたのが嘘の様に素直に言葉が出た。


「それで……避けてたのか……。」


「うん……。」


こういう態度をとるとは思ってなかったんだろう。


千晴は少し面食らっている感じがした。


「話……聞くよ?」


戸惑って喋り出せない千晴に代わって先を促す。


言葉とは裏腹に足は駅に向けてゆっくり歩き出した。


落ち着いてはいるものの、ムカつく事には代わりなかったから。


「あっ……うん………。手紙が来たって言ったよな?」


歩き出した事には何も言わず、歩幅を併せて横に並んで話し始めた。


「うん……。」


「別れてから今までそんな事なくて、二年ぶりだったんだ。由依の事なんてはっきり言って忘れてた……。」


手紙の事私が知ってたのには何も触れない。


そんな事より、元カノを名前で呼ばないでっ。


言葉には出さずに心の中で叫んだ。


「終わった事だったし、いい終わり方じゃなかったから話した事なかったけど、別れる事になった理由がわからないままだったんだよ。聞かなかったし……あの時は聞きたくもなくて……。それで……手紙が届いた時に、実菜もいるから悩んだけど……どうしても聞いておきたくて……返事書いたんだ……。」


私が黙ったままだから千晴が段々しどろもどろになっていった。


終わった事だって言いながらなんで返事なんて書くのよっ。


そしてそれが何で電話する事になる訳?


またそこでイラッとする。


「……何でそこから電話になるわけ?」


真っ直ぐ前を向いたまま感情を殺して聞いた。


「それはっ…………。理由教えてくれるなら電話してって……書いた……から。」


千晴の声が小さくなる。


「で、ケータイの番号書いて返事出したんだ。」


「ああ……。」


かすれる様な声と一緒に頷くのが横目にぎりぎり見えた。


「馬鹿じゃないの?」


怒りを通りこして呆れた――。


それで出て来た言葉が普段なら絶対口にしない言葉だった。


「ほんっとごめんっっ。」


言うと同時に思いっきり頭を下げる。


二、三歩歩いて千晴を振り返るけど、まだ頭を下げたままだ。


でも許せない。


「名前、登録してたよね……?何回電話したの?」


「昨日のは二回目だよ……。」


顔を上げて答えていた。


「……あれからまた電話したんでしょ?」


確信があった――。


千晴は優しいから二回もコールがあったのにそのままにしておくはずがない。


千晴は何も答えない。


やっぱり……。


「それで何て言ったの?」


怒りとは打って変わって声は静かに出て来る。


「喧嘩になった……って。」


「それだけ……?」


こんな事になってるのにそれだけで終わってたらそれこそ許せない。


「……電話していいって言っといて……由依には悪いけ……」


また名前で呼ぶっ。


「……ど、俺は実菜が一番大事だから……。」


そこまで聞いて今まで貯まってたものが一気に爆発した。


「一番って何よっ?二番がいるのっ?それ誰よっ?元カノっ?大体私の前で元カノの名前なんて呼ばないでよっ。」


言いながら涙が溢れて止まらなくなった。


千晴がびっくりしつつ一緒に言葉を出した。


「ごめん……。」


私は聞こえなかった様に続けた。


「返事を書くのもおかしいっ。電話するのなんてもっとおかしいっ。私の事で悩んでとった行動がそれっ?私の事そんなに好きじゃないんでしょっっ。」


「そんな事ないっ。俺は実菜の事が大好きだってっ。」


これは譲れなかったのか千晴の声も大きくなる。


だけど……。


「だったら始めからそんな行動とらないでよっ。私はっ……私は…千晴だけが大事なのにっ……。」


もっと言ってやりたい事はあるはずなのに、泣きすぎたせいで鳴咽で止まってしまった。


「ほんとに……ごめん……。ごめん……。」


謝りながら千晴が近寄って私の涙を拭こうとした。


その手を振り払った。


「触ら……ないで……。」


その行動にびっくりした千晴は一瞬止まったが、違う形で気持ちを表した。


涙で前が見えないから何が起こったか始めはわからなかったが、前後の圧迫感と千晴の匂いがすぐ傍でする事で理解する。


千晴が力いっぱい抱きしめながら口にした。


「俺……実菜の事ちゃんと考えてやれなくて……ほんとっ…ごめんっ。だけど……俺は実菜が世界で一番好きだよ。」


千晴の胸に埋まってると、さっきまで訳わからなくなってたのが少し落ち着いてきた。


私だって千晴が好き――。


たけど……。


「…ち……は……らい……。」


埋まったままなので上手く言葉にならない。


「えっ……?」


抱きしめてた力を緩めて、案の定千晴が聞き返してくる。


「世界でも…一番は……嫌い。」


困ったような顔して千晴は返事に戸惑っている。


助け舟を……。


「私はね……、世界で千晴だけが好きなの。」


何かにピンときた顔をした千晴はすぐ言い直す。


「俺も。実菜だけが好きっ。」


今度は『世界』が抜けたけど……許そう。



しばらく千晴の温もりに浸った。


離れてたように感じた愛情を確かめるように――。


「でも、やっぱりムカつく。」


その言葉に千晴の身体がびくっとなる。


「どうしろと?」


少し脅える様に言うのが可笑しかった。


「知らないっ。さっ、もう帰ろっ。」


ちゃんと千晴は私の事が好きって分かって、少しだけどスッキリしていた。


嫌な思いいっぱいしたんだからそれを千晴に悟られないように……。


もうちょっとお仕置き――。






今まで波風立つ事なく順調に時を重ねて来た二人に訪れた初めての波瀾。


わだかまりは残るが、乗り越えた事で絆は強くなる。


はず―――――。



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あきゅろす。
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