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CrossRoad
信じられない 【実菜】

 テストも終わり、また授業と部活の毎日に戻ってきた。


ただ、引っ掛かって消えてくれない事だけが残ってる。


千晴の持ってる元カノの手紙――。


まだ付き合ってた頃にもらってたものなら何で捨ててないの?


最近届いたのなら何で何も言ってくれないの?


『あんまり、いい思い出じゃないんだよ……。』


付き合い始めの頃今までの恋愛体験の話をした時に言ってた言葉――。


この前写真を見せてもらった時は二人だけで写ってる写真は一枚もなかった。


手紙なんて見せたりはしてくれないだろうけど、処分してるっぽかったのに……。


あの手紙だけがあるなんておかしい……。



「実菜ちゃーん、次ランやるからタイム計ってー。」


真くんに声をかけられてはっとする。


もうっ。何やってんの……。


今は部活中なんだからしっかりしないと……。


笛を首にかけ忘れてるのに気付いてポケットから慌てて出す。


「はーいっ。いくよー?ピッ。」


笛と同時にストップウォッチのボタンを押す。


部活中はマネージャーも何かと忙しい。


ただ、千晴も同じ部活だから嫌でも目に入る。


考えないようにしようと思ってもつい思い出してしまう。



今日はいつもと違って上手くいかない。


なんか抜けてて失敗してばかりな気がした――。






「昨日、あんまり寝てねーのか?」


帰り始めると千晴が心配そうに声をかけてくれた。


「えっ?あ……うん。わかる?」


「まあ…な。目の下にそんだけでっかいくま作ってたら誰でも分かるって。」


歩きながら私の顔を覗き込むと悪戯っぽく言う。


「うそっ?やだっ、ちょっと見ないで。」


そんなにくまになってたんだ……。


恥ずかしくて顔を背けた。


「冗談だよっ。……なんか今日ぼーっとしてたみたいだからまんまり寝てねーのかと思っただけ。くま、よく見たら確かに出来てんな。」


冗談の言葉に反応して顔を戻した所に、さらに顔を近付けて覗き込んでくる。


千晴の優しい目で見られると弱い――。


「もうっ……。恥ずかしいからあんまり見ないで。」


ついドキッとしてしまう。


「残念っ。実菜の顔見たら駄目らしい。」


全然残念そうに聞こえないんだけど……。


すぐからかうんだから。



何か千晴といるとさっきまで色々考えてた事が馬鹿らしく思えてきた。


千晴は私だけをちゃんと見てくれてるって実感が確かにする。


それだけでいいじゃない……。



そう思った時、不意に千晴から着信音が聞こえて来た。


「この時間に電話がかかってくるなんて珍しいね。誰から?」


そう言いながらズボンのポケットから千晴がケータイを取り出すのを待って覗き込む。


取り出した瞬間目に飛び込んで来た名前に言葉を失った。


千晴もびっくりした様に通話じゃなくてオフにして着信音を止めた。


今……『由依』って……。


千晴が罰が悪い様な顔をしてこっちに目をやるのが分かる。


けど今はそんなの気にならなかった。


名前が出るって事は前にも電話があったはず……。


「実菜……あのな……。」


俯きぎみの私に優しくゆっくり声をかけるけど、それが余計気に入らない。


「いつから……?」


呟く様な声にしかならない。


「えっ?」

千晴が困惑した声を出す。


「いつから元カノと繋がってたの?」


イライラが募ってしかたがない。


「いつからって……それは……。」


待っても千晴の言葉が続かなかった。


一瞬の様な時間が随分長く感じる。


「何で黙ってるの?」


ムカつく。ムカつく。ムカつく――。


返事の代わりにまた着信音が静かな空間に鳴り響いた。


千晴は名前だけ確認してとろうとはしない。


「電話……出ないの……?」


誰からなんて聞かなくても分かる。


「それどころじゃないだろ?」


落ち着いた風に言う千晴にさらにイラッときた。


「とりなさいよっ。楽しく元カノと話せばいいじゃないっ。」


吐き捨てると駅に向かって歩き出す。


「待てよっ。ちゃんと説明するからっ。」


千晴が私の腕を掴んで言う。


鳴り響いてた着信音も止んだ。


「説明したからって何なの?連絡とってる事に代わりないじゃないっ。」


千晴を睨んだ。


私がいるのに……。


「この前、手紙が来たんだ……。久しぶりに……。」


千晴が続けようとしたのを遮って、自分が言えなかった事を口にした。


「知ってるわよっ。たまたま見つけちゃったけど……。千晴、それも私に黙ってたよね。」


「知って……たのか。いや、ちゃんと言おうと思ったんだけど……。」


「でも言わなかったよね。こんな事がなきゃずっと言わないままだったんじゃないのっ?」


そこまで言うと千晴が黙った。


何でそこで黙るのよっ。


いい加減限界だった。


「もういいっ。言い訳なんて聞きたくないっ。離してっ。」


ばっと掴まれてた手を振りほどくと走った。


今は顔も見たくない……。


頭の中がぐるぐる回って何が何だかわからなかった。


気付かないうちに頬に冷たい雫が流れていた。



不意にがくんとなる。


腕を掴まれたのに気付くのに数秒かかった。


「待ってくれよっ。話ちゃんと聞けって。」


そう言っておもいっきり引っ張られたせいで千晴の胸に飛び込む形になった。


千晴が私を受けとめてくれた。


いつもなら凄い嬉しいはずなのに、今日ばかりは嫌だった。


「離してってばっ。」


ぐいっと千晴の胸を押すが、片手を押さえられてるので意味がない。


「泣いてるのに……。俺は実菜が一番大事なんだっ。離せるかよっ。」


千晴も一生懸命だってのはわかった。

いや、わかってた。


感情にまかせないで話聞かなくちゃってのも……。


だけど今千晴が言った何気ない一言が胸に刺さって力が抜けた。



『一番』って何……?


私は千晴『だけ』が大事なのに……。


多分、そんなつもりで言ったんじゃないのも分かるけど……。



力任せに押してたのをやめてうなだれたままゆっくり言った。


「お願い……。今日は何も言わないで……。」


「だけどっ……。」


何か言おうとしたのを遮る為に顔をあげた。


涙が頬を伝って止まらない。


「お願い……。」


それだけ言うのがやっとだった。


私の思いが伝わったのか、力が入っていた千晴の手がスルリと落ちた。


「わかった……よ……。」


言葉とは裏腹に納得はしてない表情。


だけど……。

「ここでいいから……。じゃあね……。」


俯くと、それだけ言葉にして千晴に背を向けて歩いた。


馬鹿っ。


馬鹿馬鹿っ。


千晴の馬鹿っ……。


悔しさと、胸の痛みが苦しい……。


駅まで黙々と歩いた――。






好きだからこんなにショックなんだ……。


今はそれどころじゃない。


それがわからない。


突き付けられた現実に、ただただ涙を流すだけ―――――。



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