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CrossRoad
真実

 テストが近付くにつれみんな授業中はわりと真剣な感じがする。


三学期末の試験は二年生最後の試験。


三年生になると受験の事が何かとついてまわる。


流石に二年生最後ともなると受験の事が頭にちらつくんだろう。


みんな頑張ってるような気がする。


といっても自分は美容の専門学校だからあんまり関係ないからいまいちやる気になれない。


まぁ成績が落ちないようには頑張ってるつもりだが……。


やる気になれない理由は他にもあった。


むしろそっちの方が大半を占めている気がする。


由依に手紙の返事を出してもう一週間以上が経つ。


ケータイの番号書いてたから連絡があるかなと待っていたけど音沙汰無し。


よく考えたら今さら聞くってのもどうかと思うよなぁ……。


わざわざあんな手紙書いて、しかもケータイの番号まで書くなんてどうかしてたよな。


実菜にも悪い気がするし、連絡ないならないでその方がいいのかもな。


あれこれ考えているうちに授業の終わりを告げるチャイムが鳴った――。






「ふー、食った食った。ねぇ、コーヒーいれてくれない?」


台所に顔を出して母親に呼びかける。


「はいはい。コーヒーね。すぐいれるから。……そう言えば、テスト勉強ちゃんとやってる?」


「今からやるよ。コーヒー待ち。」


にっと笑うと母親を急かす。


「あら。急がないとね。」


言いながらも手際よく俺好みのコーヒーをいれてくれた。


まだ熱いコーヒー片手に自分の部屋に行く。


扉を閉めてコーヒーを机の上に置いた時、ベットの上に放り投げておいたケータイが鳴り出した。


名前を確認したが番号だけ。


「誰だろ……?」


呟いた瞬間一人思い浮かんだ。


もしかして由依?


そう思ったとたん唾を飲み込む喉が大きく音を立てる。


通話ボタンをゆっくり押すとつい緊張した声で応対する。


「もしもし……。」


「もしもしっ。千晴か?俺だよ裄人。ケータイ変えたから登録よろしく。」


一気に肩の力が抜けた。


「なんだ裄人か。わかったよ。」


「何だ何だ、その気の抜けた返事は?まぁいいよ。ちゃんと登録しとけよ。」


ちょっと気にくわないといった感じでつっかかってくる。


「わりっ。ちょっと考え事してただけだ。ちゃんと登録しとくよ。」


当たり障りないように返事をしておく。


「そうか?ならいーよ。テスト勉強しっかりしろよっ。」


「お前がな。じゃあな。」


最後に勉強が苦手な裄人に悪態をついて電話を切った。


簡単な用件だけの電話は裄人らしい。


電話をとる前の緊張が何処かに飛んでいってしまった。


忘れないうちに登録し終わると、またすぐコール音が響く。


また知らない番号。


何も考えずに通話ボタンを押すと今度は陽気に声を出してみる。


「はい、もしもーしっ。」


「あっ……もしもし……。千晴?」


俺の出方に戸惑ったのかちょっと控え目な声。


懐かしい聞き覚えのある声――。


「もしかして、由依……か?」


確信はある。

でも二年越しに聞く声。


一応確認する。


「う…うんっ。そうだよ……。久しぶりだね、千晴。」


電話越しでも伝わってくる由依の緊張がなんかいじらしく思えた。


「ホント、久しぶりな。手紙……ちゃんと届いたんだ……。」


裄人の電話で一回途切れたはずの緊張が舞い戻ってきて言葉が上手くつながらない。


「うん。一週間位前に……。すぐ電話しようと思ったんだけど、久しぶりだったからなんか…かけづらくって……。」


なんとなくだけど、由依も同じような感じだな。


「そっか。なら番号書かない方がよかったかな。」


なるべくからかい気味に陽気な声を出してあげた。


「あっ…違うのっ。そういう意味じゃなくって……やっぱりちょっと……恥ずかしいでしょ?久しぶりに話すんだから。」


少し、調子が戻って来たみたいだ。


「分かってるよ。からかっただけだって。」


俺も落ち着いてきた。

うん。

前と変わらず話せる。


「もうっ。千晴変わらないね。」


「由依だって。からかいがいがある。」


「そんな事ないよ。私変わってるもん。髪だって伸ばしたんだから。今は胸位まであるんだからね。」


からかわれたのが悔しかったのかくってかかってくる。


それにしても、最後に会った時はボブ位の長さだったのに随分伸ばしたんだな……。


「へー。マジで?ロングじゃん。長いの見た事ないからなぁ。街ですれ違ったらわかんないかな?」


「ん゛ー。そこは分かって欲しいんだけど。」


電話の向こうで複雑そうな声が聞こえてくる。


それが可笑しかった。


「もうっ。馬鹿にしてるでしょ?意地悪っ。」


こっちが笑ってるのが分かったのかちょっとふて腐れたような声を出す。


「悪い悪い。そんなつもりじゃないんだって。でも、ホント元気そうだな。よかった。」


電話の向こうで少し笑い声が聞こえた。


「千晴こそっ。元気みたいで安心した。ねぇ、今何してたの?」


なんか昔に戻った様な時間が流れる。


「ああ、明後日からテストだからな。勉強しようかなって思ってた所。」


「うそ?邪魔しちゃったね。切った方がい……。」


由依が慌てて言うのを遮って言葉を付け足す。


「邪魔じゃないよ。由依のちょっと前に電話かけて来た奴がいてそれで半分やる気失せてたから。」


「そうなんだ……。半分?」


何かに気付いた様に聞き返して来た。


「んっ?後の半分は由依だろ?」


「もうっ。私も入ってるじゃない。」


からかわれたのが分かったみたいで言葉が強くなる。


「冗談だって。気にするなよ。テスト勉強は後でするから。」


「いいの?」


少し遠慮がちに言う様な所も前と変わらない。


「いいさ。そっちは?」


久しぶりに話したはずが、そんな雰囲気は何処かに消えてしまったみたいに話す。



お互いの離れてた時間を埋めるようにたわいのない話を続けた――。




「……そういえば、手紙にも書いたんだけど一個聞きたい事があるんだけど……。」


話の途中で本来の目的だった話へ話題を移す。


「あっ……うん……。私も聞きたい事があって電話したの。忘れる所だった。」


「聞きたい事?」


「うん……。別れた理由の事って聞かなくても千晴の方がよく分かってるんじゃないかと思ったんだけど……、何で聞くのかな?って。」


たしかに晃治と付き合ってたのは知ってたけど、それを由依の口からはっきり聞いてないから聞こうと思ったんだけど……。


由依の言ってる事が少しおかしい気がしていまいち理解出来ない。


「由依が別れようって言ったのに俺が理由なんて分かんないだろ?俺の方がよく分かってるってどういう事?」


「確かに私から言ったんだけど……。だってあの時千晴、めぐと付き合ってたんでしょ?だから私……」


は?


待て待て、何て言った?


由依の話を遮って慌てて聞き返す。


「ちょっ…ちょっと待って。今何て言った?」


俺の言葉に少し驚きながらも由依が俺の問いに答える。


「えっ?……だから私このままじゃ……。」


「違う違う。その前。」


「めぐと付き合ってた?」


不思議そうに聞き返してくる。


「何でめぐが出てくるの?しかも付き合ってた……?」


何がどうなってそんな話が出て来たのかさっぱり分からない。


「やっぱり……付き合ってはなかったの?……でもめぐが千晴と付き合ってるって言ったから……。」


めぐが俺と付き合ってるって言った……?


ますます意味が分からない。


「ちょっと待って……。頭がこんがらがって来た。意味がよく分かんない。めぐが言ったって?いつ?」


一つ一つ整理しないと話についていけない。


「いつ……だったかな……?よく覚えてないけど、私が千晴の所に遊びに行った後位だったと思うけど……。」


何でそんな事になってんだ?

めぐなんて転校してすぐ位に一回手紙のやり取りしただけなのに。


「余計分かんない。先に言っとくけど俺がめぐと付き合う訳ないだろ?由依と付き合ってたんだから。それにめぐとは転校したての時に一回手紙のやり取りしただけで何にも接点がねーよ?」


今度は由依が慌て出した。


「うそっ?だって電話もしてるって言ってたし……。手紙一回……?信じられないならそれでもいいけどって、めぐが……。」


「それのが嘘だよ。電話なんか一回もした事ねーし。大体何でめぐがそんな事言うんだ?…………もしかして別れた理由って……これ……?」


一つの結論に達して呆然とした。


電話越しの由依も同じなんだろう。

一時言葉を発しなかった。


「だって……だって……そう言ってたんだもん。千晴めぐの事何にも言ってくれないし、隠してるって思って……辛くって……。」


「めぐなんて話題に出て来ない位忘れてたんだから何も言いようがないだろ……?」


「そう……だよね……。」


力の抜けたような返事が返ってくる。


それと同時に俺の中で嫌な思いが湧き上がる。


別れた理由がめぐの事なら……。


「俺はあの時由依が晃治と付き合ってるって聞いたんだけど……。」


言い終わる前に電話の向こうで突拍子もない声が割り込んで来た。


「えーーっ?私の方こそ付き合ってなんてないよっ。千晴がいたんだからっ。」


やっぱり……。


「だけど伊東が言ってたぜ。毎日一緒に帰ってるって……。」


「それはっ……私がめぐと千晴の事で落ち込んでて……晃治くん無理矢理ついてくるんだもん。でもやっぱり千晴じゃないと駄目だったからいつもすぐ追い返してたんだよ?」


最後まで言わせてくれずにまた由依が割り込んで来る。


「まぁ……伊東、他の奴にも色々聞いたみたいだけどはっきりとは分からないって言ってたしな……。だけど俺は由依が隠してると思って……。」


「それだって私の中じゃ何にもない事だから話すような事でもないと思ってて……。それよりも千晴と楽しい話したかったし……。」


そこではっとしたように由依が聞いた。


「もしかしてそう思ってたから言う事ないかって聞いてたの?」


「そうだよ……。」


なんか力が抜けた……。


「だから別れようって言った時も何も言わなかったんだ……。」


由依も同じらしい。

言葉が弱くなる――。






自分達が突き付けられていた現実が全くの違うもので呆然とする。


真実が……辛い―――――。



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あきゅろす。
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