CrossRoad
忘れられない 【由依】
やっぱり手紙なんて出すんじゃなかったかなぁ……。
重い鞄をどさっとおろすと制服のまま机に突っ伏して頭の中で呟いた。
千晴に手紙を書いてもうすぐ二週間――。
返事は届かない。
まぁわざわざ手紙を返すような内容でもないけど……二年以上も音沙汰無しでいきなり手紙が届いたりして千晴はなんて思ったかな……。
もう二年以上も経つのになんで手紙書くかな……。
自分のした行動に疑問を投げ掛ける。
でも答えは分かってる気がした。
私は千晴以上の人に出会えなかった。
千晴と別れてすぐ押しの強い晃治くんと付き合ったけど、ただ千晴と別れた淋しさを埋めたかっただけのような気がする。
つい千晴と比べてしまって余計に千晴の事を考えて辛かった……。
高校に入って環境も随分変わっていった。
千晴の事もやっと薄れて来た頃に告白されて、正直いいなと思って付き合ったけど、長く続かない。
私に原因がある事は分かってる。
だって一緒に居てもドキドキしないんだもん……。
一緒にいて楽しい人はいる……でも付き合うとかじゃない……。
そう思ってた時に掃除をしてたら机の引き出しの奥にしまい込んで忘れてた物が出て来た。
千晴との交換日記――。
中学時代の思い出は沢山ある。
場面場面写真におさめたように記憶を呼び起こしてみた時に千晴の仕草や笑顔ばかりを思い出す。
私、今でも千晴の事好きなのかな……。
それから伊東くんに千晴の話を聞いて、気持ちが抑えられなくなってきて……。
だから手紙を書いた――。
千晴の事が信じられなくて……辛くて別れたけど、本当に大好きだったんだって後から後から思い知らされた。
もう戻るような事はないと思うけど、このまま何もしないよりかはマシ。
万が一の可能性だけど、もしかしたら千晴も少しは私の事……。
そう思いかけて頭を振る。
千晴はモテるから彼女もいるだろうし……。
聞くのが怖くって手紙にも書けなかったし。
ホント……今さらだよね……。
私もちゃんとふっ切らなきゃ。
手紙を出して以来、どことなくふわふわしてたのが少し落ち着いた気がした。
机から頭を起こそうとした時に部屋の扉が開いた。
「由ー依ー。すっごい懐かしい人から手紙が届いてるよー。」
その言葉に反射的に頭を起こす。
扉によっ掛かって手紙をひらひらさせながらにたにた笑う美依の顔が目に入った。
「誰からっ?」
つい言葉が急かすように出てしまった。
それを聞いた美依が可笑しそうに笑って勿体つける。
「さぁー。誰からかなぁ。」
「もうっ。早くかしてっ。」
そう言うと美依から手紙を奪い取った。
「可愛いねー、由依は。」
美依の言葉を無視して差出人の名前を確認する。
『永里千晴』
「千晴……。」
嬉しくてつい顔が緩む。
その瞬間はっとした。
美依がまだこっちを見ていてクスクス笑ってる。
顔が赤くなったのが自分でも分かった。
「ちょっといつまで見てるつもり?早くどっか行ってよっ。」
「照れちゃって。私も見たいなぁ。」
見せてもらえるはずなんてないって分かっててからかってるのが分かるから歯痒い。
「駄目っ。向こう行ってよっ。」
「恐い恐い。」
そう言うと部屋を出て行った。
それを確認すると椅子に座り直して鋏を取り出して封を切る。
「そういえば由依ー、ご飯だって。」
美依が顔だけ出して呼びかける。
取り出しかけた手紙を隠してばっと振り返ると笑顔の美依の顔が目に入る。
「美依っ。すぐ行くから先に行っててっ。」
「はーい。由依はとっても忙しいって伝えとく。」
「もうっ。」
こっちが言い返す前にさっといなくなったので、怒る気が失せた。
というより手紙の方に気をとられて仕方がなかった。
扉をちゃんと閉めるともう一度椅子に座り直して、綺麗に折られた手紙を取り出して開いた。
『DEAR 由依
手紙、ありがとう。随分久しぶりで正直びっくりしたよ。元気そうで安心した。
高校は一番近い所選んだよ。朝が相変わらず苦手だから。って言っても地元じゃ一番いい学校。へへっ、ちょっと自慢な。
んで部活はやっぱりバスケ部入った。こっちの連中はみんな上手いし、高校だとまたレベルが上がって実際大変。まぁ色々頑張ってるよ。
あれから二年以上かぁ。早いもんだな。
んー、今さらって思うかもしれないけど一個聞きたい事があるんだけど……。
別れようと思った理由ってなんだったの?
聞く事はないって思ってたけど一応聞いときたくて……。
手紙、迷惑じゃなかったよ。ありがとう。
あっ、俺ケータイ買ったんだ。理由聞かせてくれるんなら電話して。
090-****-****
FROM 千晴』
「迷惑じゃなかったんだ……。」
読み終えて少しほっとした。
そしてそれ以上に嬉しくなった。
手紙が届いた事も凄く嬉しかったけど、手紙を見て千晴が相変わらずっぽいのが分かったから。
私が聞いた事に返事を返すように書く所とか全然変わってない。
私を気遣ってくれる所も……。
変わらない私の知ってる優しい千晴――。
だけど……別れようと思った理由って……。
ふと疑問に思った。
それって千晴がめぐと付き合ってたからで、私に聞かなくても……。
あっ、付き合ってたかは私も知らないんだ。
私の知らない所で連絡取り合ってたのが嫌だったんだっけ……。
でもめぐは付き合ってるって言ってたんだよね。
だから私は捨てられて……辛くて……でも別れてた訳じゃなかったから別れたんだ……。
私から別れようって言ったかもしれないけど……あの時には私よりもすでにめぐを選んでたんだよね……。
思い出したら一気に気持ちがへこんだ。
なんで手紙なんて書いちゃったんだろう……。
捨てられたんだから千晴にとって私の事なんてあそこで終わりだったはずなのに……。
どっちにしても千晴の方が理由なんて分かってるはずだからわざわざ私に聞かなくたっていいんじゃないのかな。
頭の中でぐるぐる考えが回る中、やっと考えがまとまりつつある所になぜかもやもやしたものが胸に引っ掛かる。
聞かなくても分かる事を聞きたいって、どういう事なんだろう……。
わかんない……。
そう思った時、お腹が小さく鳴った。
「あっ、ご飯だったっけ。早くいかなきゃまた美依にごちゃごちゃ言われる。」
時計に目をやると随分時間が経ってる気がした。
わからないなら……聞けばいい。
後で……電話しよう。
千晴は私を拒絶しなかった。
手紙の返事が届いただけでも分かるけど、ケータイの番号まで書いてくれてた。
まだ繋がってる――。
前の事は過ぎ去った事で変えようもないけど……今はそれが一番嬉しい。
二年以上か……。
緊張する……。
さっき一回へこんだのが嘘みたいに気持ちが昂揚してる。
椅子から立ち上がると、ブレザーのボタンに手をかけた――。
二年以上の時を経て、真実へと近付いていく。
忘れられない想いが再び接点を作る。
間近に……別れ道がせまる―――――。
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