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CrossRoad
予期せぬ手紙

 いくら学校から家が近いと言っても外の寒さに変わりはない。


寒さが身体の芯まで冷やしていく。


少しでも寒さを和らげる為に自然とマフラーに首を埋め早足になっていっていた。


田舎の夜は明かりが少なく、闇が長い間続いて先が見えない。


まるで一瞬先がどうなるか分からない人生そのものだ。



色々な事を考えている内に気付いたら家の門を通り過ぎていた。


心ここにあらずの状態でもちゃんと家には帰れるらしい。


少し可笑しくなった――。


「ただいまー。」


玄関の扉を開けながら言うと調度母親が目の前を通り過ぎていった。


「あらおかえり。」

一瞬こちらに顔をむけて声をかけると、慌てた様子で台所へ消えていく。


「腹減ったー。今日の飯何ー?」


靴を脱いで上がると、台所を覗き込んで晩御飯のメニューを聞く。


「ご飯ばっかりね。今日はカレーよ。」


帰ってくるたび開口一番にご飯の事を言う俺の事が可笑しかったのだろう、ふふっと笑いながらメニューを教えてくれた。


「今つぐから着替えていらっしゃい。あっ、あと手紙が来てたわよ。」


「手紙?」


そんなのを書いてよこす奴に心あたりがなくて聞き返す。


「大分から届いてたわよ。」


少し含みをもたして言う母親に疑問を持ったが、空腹の方が先にたつ。


「すぐ食うから早くね。」


それだけ言い残すと自分の部屋に向かった。



机に置いてある手紙を手に取ると、替わりに鞄を机に置いて手紙を裏返す。


『小楠由依』


「由依?」


住所の下に書いてある懐かしい名前が目にとまって驚いた。


別れて以来お互い一切連絡をとってない。

どうして今手紙がきたのか不思議だった。


制服のボタンに手をかけながらハサミに手を伸ばす。


ボタンだけはずしきると、手紙の封をきる。


見る前に着替えようと思って制服をかけた所で母親がご飯の用意が出来た事を報せに来た。


手紙の内容が気になったが、先にご飯を食べる事にして部屋を出た――。





机の椅子にもたれ掛かって手紙を開く。



『DEAR 千晴

別れてもう二年以上が経つね。ホントに久しぶり。千晴は元気にしてる?
私は元気だよ。知ってるかもしれないけど学校は伊東くんと一緒。
千晴たまに玖珠に遊びに来てるんだってね。伊東くんとは学校でもそんなに会う機会はないんだけど、この間話した時に千晴の事聞いてなんか懐かしくなって今手紙書いてるの。
そっちの高校はどう?千晴頭よかったからね。いい高校行ってるんだろうなぁ。
あっ、やっぱり部活はバスケ?違うの入ったのかな?それとも帰宅部?
前は色んな事話してて知ってる事の方が多かったけど、今は全然だね。
…ホントはね、手紙書くかどうかすっごい悩んだんだ。千晴、迷惑なんじゃないかと思って……。
そうじゃなかったら嬉しいけど。
いつかまた、会えたらいいな。

     FROM 由依』



懐かしい由依の特徴のある字――。


時間とは不思議なものだ。

あんなに別れる時は苛々したりムカついてたのに、今はそんな気持ちはまったくない。


初めて付き合った女の子だし、自分の事を思い出してわざわざ手紙を書いてくれた事がむしろ嬉しかった。



「手紙…か……。懐かしいな。」


中学一年の時にしょっちゅう手紙を書いて持って来てた事を思い出してくすっと笑った。


伊東と同じ学校だったんだ……。


伊東は自分の学校の事はほとんど何も言わない。


コピーバンドをはじめて、その事位だ。


まぁ、伊東は俺と由依の別れたいきさつを一番知ってる奴だから気をきかせて言わなかったんだろう。



別れたいきさつ――。


そう思った時、今なら別に聞いてもいいかなと思った。


あの時は由依の口から直接聞く事に抵抗がありすぎて自分の中で勝手に納得して別れたけど、どうして由依は俺と付き合ってたのに晃治と付き合う事になったのか、なんで言わなかったのか何も知らない。


知らなくてもいいとあの頃は思ってたけど、思いついたら気になった。


もう二年以上も前の事だし、俺には今実菜がいる。


そういえば実菜は手紙の返事なんか書いたら怒るかな?


気にしなさそうだけど……。



少し葛藤したが、俺の中で気になる方が勝ってしまっていた。


由依は会えたらいいなとは書いてたけど、別に会うわけじゃないし……。


忘れてた分、気になったら頭から離れようとしなくなってきた。


でも実菜になんか後ろめたい……。



「いいや、保留っ。風呂入ろ。」


手紙を封書に戻すと部屋を出た――。





止まっていたはずの歯車が勝手に廻り出す。


思いがけない一通の手紙が鍵となって―――――。



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