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CrossRoad
冬の夜空の下


 「じゃあ、先に出るからな。お疲れー。」


「気をつけて帰れよーっ。」

バタン――。

部室のドアが閉まろうかした時に真の大きな声が聞こえた。


外和真(そとかずまこと)――。

中学三年から同じバスケ部の友達で、高校じゃキャプテンしてる。


まったく……あれだけきつい練習の後だってのに元気だな。


やれやれと思いながら部室の前で鞄を重そうに持ってる彼女に声をかけた。


「お待たせ。んじゃ帰ろっか。」


言葉と一緒にはく息が白い。

部室よりもやっぱり外の方が寒いな……。


「うんっ。でも大丈夫?今日はまた特にハードだったから疲れたでしょ?」


歩き出しながら少し前かがみになって覗き込んで心配そうに言う。


岩崎実菜(いわさきみな)――。

同じ高校二年、バスケ部のマネージャーで俺の彼女。


昨日の休みに切ってきた、短めの前髪が印象的なショートボブがよく似合ってる。


「千晴……?どうしたの?」


思わずみとれてた……。

返事を返し忘れてたのを実菜の声で思いだした。


「いや、何でもない。平気だよ。ちゃんと駅まで送るって。それにしても前髪切ったなぁ。」


その言葉と同時に前髪をバッと手で覆い隠すと恥ずかしそうに聞いてきた。


「変……かな?朝同じクラスの娘達には可愛いって言われたんだけど……。」


「全然っ。めっちゃ似合ってるよ。見とれるくらい。」


言った瞬間腕を叩かれた。


「もうっ。馬鹿にして……。それならこんなに短くするんじゃなかった。」


叩く時も今も前髪に手をおいたまま外さない。


からかったつもりはなかったのに、そんな態度をされたらいじってやりたくなる。


けどあんまり怒らせると恐いから、

「手、どけなって。ホントに似合ってるんだから。」


そう言いながら手をつかんで外させる。


「笑わない?」


「始めから笑ってないだろ?うんっ、可愛いよ。」


「ホントにー?でも嬉しいっ。」


やっと手をちゃんとどけると、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。



実菜は実際可愛い。

他の高校に行った友達達も、

『実菜ちゃん可愛いよな。俺と代われっ。』

って言ってたし。




「…千晴っ。もうっ……聞いてない。さっきからずっとぼーっとしてる。……やっぱり疲れた?」


物思いにふけってたら実菜の話が全然耳に届いてなかった。


ちょっと怒ったような顔をしたが、すぐに心配そうな顔をしてまた覗き込んで来た。


「ごめん……。きつい訳じゃないよ。ちょっと考え事してた。実菜……そんなに顔近付けたらキスするよ?」


話を聞いてなかった事をごまかそうと、わざと実菜が照れるような事を言ってみる。


「いいよ。してっ。」


そう言って俺の前に立つと半歩近付いて来た。


想像してた答えと違った事にビックリして俺の方が照れる。


思わず振り返って後ろに人がいないか確認する。


前には人はいるが結構離れてる。


まぁ夜遅いから真っ暗だしわからないだろうけど……。


一瞬色々頭の中をよぎった考えをまとめると、俺も半歩実菜に近付いて軽くチュッと唇を重ねた。


「ふふっ。ビックリしたんでしょ?でも……それだけ?」


悪戯っぽく笑うと上目使いで俺の目を真っ直ぐ見ながら言葉を付け足す。


髪型が変わったからか、その言葉と仕種に思わずドキッとしたが、負けられない。


「あっ……。」

ガバッと実菜の腰に手をまわして引き寄せると、近付いた実菜の目をじっと見つめた。


自然と実菜の瞼が閉じていくと同時にゆっくり唇を重ねる。


お互いの舌がゆっくり絡んでいって、時間がゆっくり流れているような錯覚を覚える。




「……今日はね、何でかわかんないけど……キスしたかったんだぁ。」


長いようで短いキスをし終えると、少し照れたように実菜が言った。


「全然そんな風に見えなかったけど?」


「当たり前でしょっ。そんな風に見えたら恥ずかしい娘じゃない。」


「そりゃそうだ。変態みたいだな。」


「誰が変態だってー?」

ゆっくり言いながら怒ったような顔を作ってるのがはっきり分かる。


また覗き込んで来たので、今度は何も言わずそのまま唇を重ねた。



離れ際お互いゆっくり目を開くと、笑顔の実菜が目に映る。


かと思うと、はっとした顔をして左手にはめた時計に目をやる。

電車の時間か……。


「まだ大丈夫だったみたい。でも少し急ごう。」


安堵から、ふうっとため息をつくと同時に言うと白い息が暗い冬の空に消えていく。


何も言わず実菜の手をとって歩き出す。


冷たい手――。


逆に俺の手はずっとポケットに手を突っ込んで歩いてたから暖かい。


「暖かい……。」


ボソッと実菜が呟いたのがかろうじて耳に届いて来て、ならよかった……と思った――。





そばに居てくれる人がいるだけで寒さが和らぐ気がする。



高校二年の冬――。


星が綺麗な夜空の下で改めて温もりを感じた―――――。



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