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CrossRoad
流れた時間

「なんか、あっという間だったな……。」


電車の時間がまだあるからと、伊東と駅の前で色々とくだらない話をしてたら急に言いだした。


「まあな。冬休みは短いし今回は四日間だけだったからな。」


それだけ言うとぶるっとした。

玖珠の冬は福岡よりも寒く感じる。


首に巻いたマフラーに顔を埋めて寒さを防ぐ。


「確かに冬休みなんてすぐ終わるよなぁ。休みが明けたらすぐテストだし。嫌だなぁ。」


そう言った伊東の顔を見上げると意地悪く言ってやる。


「伊東って……見た目は頭良さそうに見えるのにな。以外と馬鹿だよな。」


「あー、はいはい。頭のいい奴には馬鹿な奴の悩みは分からんだろうねぇ。」


分かってますと言うように言葉を並べていくのが可笑しい。


思わず笑ってしまう。


「こっちは笑い事じゃないんだよ。うちみたいな高校で留年したとかなったらいい笑い者だぜ。おっ……そろそろ電車が来るぞ。」


伊東の言葉に反応して携帯電話の時計に目をやる。


確かにもうそろそろだ。

小さ目のバックを肩にかける。


本当に四日なんて過ぎてしまったらあっという間だ。


もっと残って遊びたいがそうも言ってられない。


「そしたらまた来るわ。今度は夏休みか……。しっかり金貯めろよ。金がなくて行けませんでしたじゃ洒落になんねーから。」


「分かってるって。そっちこそしっかり貯めろよ。体験入学だけじゃなくって旅行なんだからな。あればあるだけにこした事ないんだから。……それじゃまたな。」


俺を偉そうに見下ろして言う。


まだ同じクラスだった中学二年の時には同じ位の身長だったのに、たった二年で20p近くも伸びやがって……。


話す時にどうしても見上げてしまうのがちょっと悔しい。


「おうっ。また……。」


それだけ返事をすると改札を過ぎるまで見送ってくれた伊東に手を振って電車に乗り込んだ――。





電車の早さで窓から見える景色が次々移り変わっていく様をぼーっと眺めていた。


冬の空は暗くなるのが早い。

さっきまで夕方だったのがもうほんのり夜の闇が窓から見える景色を飲み込んでいく。


家に帰り着くまで二時間はかかる。


はっきり言って暇だ。


お気に入りの音楽がイヤホンから耳に流れてるがほとんど聞き流してる様なものだ。


さっきも思ったが、いつもは時間が経つのは遅く感じるのが、過ぎてみると早いなと思う。


楽しければなおさらだ。


伊東とは今でも長期休みの度に俺が玖珠まで来ては遊んでる。


久々に会える友達というのはなかなかいい刺激を運んでくる。


俺達ももう高校二年生があと一学期で終わろうとしていた。


自然とこれからの進路の話にもなる。


中身はたいして変わってないのにお互い少し大人になってるんだなって実感した。


伊東はデザイナーになりたい。


俺は美容師になりたい。


お互い少し似たような道を選んでるのと関西に出たいって事で、二人で夏休みを利用して旅行を兼ねて体験入学をしに行く事にした。


何より前から知ってる奴とまた近い場所に一緒に住めると思ったら嬉しかった。


離れてはいるが、転校ばっかりしてきた自分にとっては嬉しく感じる絆の様なものがあるのかな、と思った。


口には出しては言えないな。


恥ずかしいと思って違う考えを頭の中に差し替える。


玖珠に来る度、楽しかった事を思い出す。


色々あってつい思い出し笑いをしてしまった。


ただ……二年前の夏は辛かったけど……。


あの別れた日以来由依とは会ってもないし話してもない。


そういえば二年前の冬に玖珠に遊びに来た時に、思い出したかの様に伊東が言ってたっけ。


『そういえば由依ちゃん晃治と別れたみたいだぜ。九月の終わりの頃だったかな。やっぱり付き合ってたなんて、女って信じらんねー。』


夏以来時間が経ってたとはいえやっぱりいい気はしなかった。


それにしてもあの時の伊東は男友達と遊ぶばっかりな伊東らしい事言ってたな。


『女なんて信じらんねー。』


でも俺もあの時はそうだそうだって言ってたっけ。


もう随分前の事の様な気がする。



その後高校受験があって、俺も周りの友達も伊東も志望校に合格して……それから高校での新しい生活がスタートして、勉強も部活も高校だとまた大変になって……。


それからもうすぐ二年――。


新しい友達もいっぱい出来た。


バスケ部も三年はとっくに引退してて今は俺達主体のチームになってしごかれてる。



そして……部活のマネージャーと一年の夏から付き合い出してもう一年半近く。


毎日色々あるけど充実してる気がする。



本当に色々移り変わっていった――。


物思いにふけっているうちに窓から見える景色も深い暗い闇に覆われてしまっていた。


あと二駅もすれば着く。

食べ尽くしたポテトチップの袋と紙パックのコーヒーをビニール袋に入れ、降りる準備を整えていった――。



時間は止まらず常に流れ続けている。


その時々で思う事や感じる事はあるけれど、時間と共に薄れていく。


ただ、忘れた訳ではない……。

思い出として積み重なった分だけ引っ張り出しにくくなってるだけ―――――。



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