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CrossRoad
笑顔と涙

「由依……落ち着ついた?」


氷がたっぷり入れられたアイスティーを持って来てくれながら美依が声をかけてくる。


「……うん。ありがと。……ごめんね心配かけて。」


家に帰っても思い出しては泣いてを繰り返して、やっと落ち着いて来た。


「それにしても……どうしたのかな?千晴くん……。」


美依は私の事をよく分かってる……。


落ち着くまで何も言わずに側にいてくれた。


そんな小さな優しさが今は凄く嬉しい。


「……もういいの……。離れちゃって千晴の事よく分からなくなっちゃったな……。」


泣きながら色々考えたけど、自分の中で一つの結論が出ていた。



色んな事気にするのも疲れた……。


このまま付き合ってても辛いだけ……。


それなら……。


千晴と別れる――。



色んな事から解放されたかった。


「美依……私ね……千晴と別れる。」


ゆっくり言葉を出す。

決めた事をもう取り消さない為にも口にした。


「ちょっと由依本気っ?あんなに千晴千晴って言ってたじゃない。」


美依が慌てて言う。

急にそんな事言われたらびっくりするよね。


でももう決めたから……。


「本気だよ……。好きだからね……辛いの。辛過ぎて……もう忘れたいの。」


繋がりがなくなっちゃえばただでさえ離れてるんだから忘れられる。



それに……もしかしたらほんとにめぐと付き合ってるのかもしれない……。


そんな事聞きたくないっ。


知りたくないっ。


頭の中に浮かんできた考えを振り払う。



「由依の事だけど……後悔しないの?」


美依が心配そうに言ってくる。


「……そんな事わからないけど……。今のままだと駄目なんだもん……。だから……もういいの。」



そう言うと立ち上がって電話の所まで歩いた。


今言っておかないと決心が鈍る。

また辛い毎日が待ってる……。



千晴は伊東くんの家に泊まってるはずだから……。

そう思いながら連絡先を調べる。


受話器をとって番号を押すとコールが耳に響いてくる。


小さく深呼吸をした――。






休憩と言って部活を寛美と一緒に抜け出して中庭に出る。


もうすぐ千晴が来るはず。


昨日とは違って会うのが怖い――。


電話でもまだ怒ってた気がする……。


でも……でも……もし千晴が別れたくないって言ってくれたら……。


めぐとは何もないって言ってくれたら……。


私はきっと頑張れる。


だけど……。



不意にかけられた言葉で思考が止まる。


「由依ちゃん……大丈夫?」


寛美が心配そうに見てる。


寛美には自分の出した結論だけ伝えた。


昨日あれだけ激しく泣いた所を見られてるし、何も理由は聞いてこなかった。


『そっか……。辛いね……。』


とだけ言ってくれた。


いつか落ち着いて気持ちの整理がついたらちゃんと話すから……。


そう思いながら心の中で謝った。




ふと校舎の入り口に目をやると千晴と伊東くんの姿が目に飛び込んできた。


ゆっくりこっちに歩いて来る。


やっぱり凄く緊張する……。


気付いた寛美が席を立って中庭を出ていって伊東くんと話しだした。



「……待った?」


よかった――。

優しい声。

怒ってはないみたい……。


少しだけ緊張がほぐれて、首を振って答えた。

「待ってないよ。……部活の途中だし……。」



「………。」


「………。」


何か言わなくちゃと思うのに何て言っていいのか分からない。


少し長めの沈黙が続く中、意を決して言葉にする。


「千晴……。私達……別れよう……。」


言ってしまった……。


もう後には戻れない……。


千晴の言ってくれる言葉次第。



千晴は……今私の事どう思ってくれてるの?



言葉に出来ない想いを抱いて千晴の目をじっと見つめる。


少し考えてた様に見えた千晴が私を見ると言葉を絞り出す様に言った。


「……分かった…よ。」


……そっか……。


千晴はもう私の事はいいんだ……。



昨日からずっと思ってた。


ううん……多分ずっと前から感じてた。


少しうるっとくる。


全てを受け入れる覚悟をしてたから……まだ大丈夫。


話せる――。



「……それとね、ほんとは昨日渡そうと思ってたんだけど……渡せなかったから……。これ、誕生日プレゼント。」


紙袋を胸の前に出して泣きそうなのを気付かれない様に言う。


「嬉しい……けど、もう貰えないな……。別れちゃったんだし……。」


別れたんだ……もんね。


今渡しても……貰ってくれないよね。


用意した紙袋を見ながら何で持ってきたんだろうって思った。


「そうっ……だよね……。」



「……何だったの?」


「……キーホルダー。悩んだけど、これが可愛いかったから……。」


「……そっか。……もったいないから由依が使いなよ。気に入ったんでしょ?」


思ってもみなかった言葉が返ってきた。


やっぱり千晴は優しいな……。


「……うん。そうだね……そうする。」


顔を上げて千晴を見ると、優しい目で見つめてくれる。

自然と笑顔になる。


私が大好きないつもの千晴――。



「……そしたら、もう行くわ。……じゃあな。」


いきなり手を振って帰ろうとするから思わず声が出た。


「あっ……。」



まだ……。



もう会えたり……しない?


ほんとにめぐと付き合ってる……?


気になる……けど……。



すぐそこまで出かかった言葉を飲み込むと、千晴の優しく笑った顔が目に映る。


「バイバイ。」


そう言うと私が返事をするのを待ってるのが分かる。



もう……私達は終わったんだよね……。



千晴の笑顔を見たら不思議と気持ちが澄んでいった。


「……うん。バイバイ。」


自然と笑顔を返す事ができた――。







いつも優しくて……。

頼りに出来て……。


大好きで……。


ほんとにずっと一緒にいたかったよ……。



でも……もう駄目だね。



また……いつか会えるかな……?


無理だよね……。


色んな想いが溢れてきて……涙がこぼれた―――――。



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