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CrossRoad
光流れ落ちる夜空と

今日やっと千晴に会える――。


どんなに今日という日が待ち遠しかったか……。


鏡に映る顔が自然と緩む――。


「由依―っ。出来たー?寛美ちゃん来たよー。」


美依が部屋の向こうから呼びかけてる。


もう来たの?

まだ髪が出来てない……。


「まだぁー。もうちょっとだから待ってー。」

慌てて返事をするが、セットの方がいまいち上手くいかない……。


「どれだけ時間かければ気が済むのよ……。まぁ、愛しの千晴くんに久々に会えるから張り切っちゃうかぁ。」


『愛しの』の部分を強調しながら美依が部屋に入って来てからかう。


「ねぇ、美依……お願いっ。髪まとめてっ。上手くいかないの……。」


からかいの言葉には反応せず振り向くと美依にすがり付く。


「あーはいはい。可愛い妹の為一肌脱ぎますかっ。」


そう言いながら私を鏡の前に座り直させると髪をまとめ始める。


「可愛いくしてよっ。」


「由依……真剣な顔してるつもりでも、緩んでるよ。」


またからかう。


「もうっ……。いいでしょ。早くっ。」



まとめ終わると飾りをさしてポンッと肩を叩いた。

「はいっ、出来た。……いい?」


「うんっ。ありがと。……ねぇ……おかしくないかな?」


立ち上がって浴衣の袖を持つと左右に身体を捻って美依に意見を求めた。


「大丈夫っ。可愛い可愛い。……ほらっ、寛美ちゃん待たせてるんだから早くおいで。」


先に立って歩く美依の浴衣の柄の方が可愛い気がすると一瞬思ったが寛美が言ってくれた一言で忘れさせてくれた。


「もー由依ちゃん遅いっ。……わー……可愛いねっ。私も浴衣着ればよかったなぁ。」


「ごめんね待たせちゃって……。そうよー。着ればよかったのに。」


「由依、千晴くんと待ち合わせしてるの8時でしょ。そろそろ行かないと間に合わないよっ。」


美依が時計を見ながら急かす。


「うんっ。行こっ。」


そう言うと久しぶりにはめた左手の指輪を押さえながら思う。


もうすぐ会える――。

なんか……緊張するな……。



先に出て行く美依と寛美について家を出る――。





……ドーンッ――。


花火が弾ける音が夜空に轟く。


目線の先に、こっちを振り返ったずっと会いたかった顔を捉える。


千晴だ――。


もう来てる。

早く行かなくちゃと思うけど浴衣だと上手く走れななくてちょっとずつしか進まない。


段々近付くにつれ千晴の顔がはっきり見える。


髪が短くなってる……。


長めも好きだったけど、こっちの方がかっこいいな……。



「千晴……久しぶり……。」

やっとの思いでたどりついて声をかけるけど息が上がってしまって途切れ途切れになってしまった。


「ほんと……久しぶり。浴衣……可愛いね。」


少し照れながら言ってくれるのが可愛い。


つい意地悪言いたくなる。


「むー……浴衣だけ?」


わざと頬を膨らませて怒ったように見せる。


「あー、間違った。浴衣を着た由依が。」


その先を言わせたい。


「が……?」


「可愛いい。」


嬉しいっ。


「えへへっ。ありがと。」



自然と笑顔になる――。


不安で……辛くて……淋しくて………。


会いたくて会いたくて仕方がなかった千晴が今ここにいてくれる。


優しく見つめてくれるその目が大好きっ。

それだけで満たされる。



久しぶりに会うから緊張して上手く話せない。


だけど今まで話せなかった分を取り戻す勢いで喋った。


その間次々に花火が夜空に花開いていくのを見ながら――。



去年とは全然違うけど、溜めてた想いの分、今日の方が100倍楽しい。


こんなに幸せな時間が在っていいのかって位幸せ――。



「由依……俺に何か言う事ある?」


えっ……?

何で最近そうやって聞くのかな……。


「……んーん。特にないよ。」


「……あるだろっ。……何か俺に隠してないか?」

千晴の口調が少しきつくなった。

笑顔も消えてる……。



何で……?


私は何も隠してなんかない……。


今までの不安が一気に思い出される。


隠してるのは千晴じゃないっ。


どうして言ってくれないの……。


ずっと信じてるのに……。


信じたいのに………。


「……ないよ……。……千晴は私に言う事ないの?」


めぐの事を話してっ。


こんな不安で辛い想いなんて吹き飛ばさせて……。



千晴の答えが怖くて千晴の目がみれない……。


心臓の音が周りにまで聞こえそう……。


……ドーンッ……ドーンッ……ドーンッ……。


光の花が大きな音をたてて散っていく。


……ドーンッ……。


花火の大きな音がしたかと思ったら千晴の答えが大きな声で返ってきた。

「ないよっ。……もういいっ。勝手にしろっ。」


そう言うと千晴は人込みの中に消えて行こうとした。


咄嗟に手を伸ばすけど届かない――。


「えっ?待ってよ千晴っ。待って……。」


……ドーンッ……。


どんどん遠ざかる。

花火の音で声が届かない。



どうして怒ったの……?


私……何か言わなくちゃいけなかったの……?


千晴は言う事何もないの……?


そんなに怒るような事……私何か言った?



……ドーンッ……。


目に涙が自然と溢れてくる――。


さっきまであんなに楽しかったのに……。


会えただけで嬉しかったのに……。


どうして今こんな事になるの……?


花火大会一緒に周ろうって言ったのに……。


私が悪かった……?


まだ我慢しなくちゃいけなかった……?


一人にしないで……。


怒らないで……。


こんな……こんな……。



……ドーンッ……ドーンッ……ドーンッ……。


光の花が咲き乱れては流れ落ちる軌跡を夜空に映し出し消えていく――。



目の淵に留まりきれなくなった涙が勢いよく両頬を伝って流れ落ちていく。


「……ぐすっ……待ってよ……。ぐすっ……千晴……。」



不意に肩を揺すられてはっとする。


「由依っ。由依っ。どうしたの?何があったのっ?」


美依が慌てながら言ってる。


「…ぐすっ……千晴が……怒っちゃって……ぐすっ……。」


「怒った?どうして?楽しそうにしてたじゃないっ。」


美依が問いただすように言ってくるのが今は辛い。


「…ぐすっ……わかんないよっ……。もうやだーっ。」


また一気に涙が出て来て止まらない。



今まで必死に我慢してたものが弾けてもう押さえられない。



色々考え過ぎて嫌な事ばかり考える……。

想いが強いから淋しい……。

周りに振り回されて不安ばっかり募る……。

せっかく会えても前みたいに上手くいかない……。



辛い事ばっかり。



好き過ぎて余計に辛い――。



もういい。


もう何も考えたくない。




かろうじて支えられてたものが全て崩れさった―――――。



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