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CrossRoad
分かたれた道

伊東の自転車の後ろに乗って久しぶりの学校へ向かう。


伊東がびゅんびゅん飛ばすので、風が身体全体をすりぬけて気持ちがいい。


だが、いまいち気持ちが乗り切れない。


昨日かかってきた電話が原因なのは分かっていた――。




「千晴くんに電話がかかってるわよ。小楠さんから。」


扉が開いたかと思うと伊東の母親がコードレスの受話器を持った手を伸ばしながら言ってきた。


受け取ると通話ボタンを押す。


「……もしもし。」


「千晴……。話しがあるの……。明日1時に学校に来てくれる?」


少し暗い声――。

さっきあんな事があったばっかりだからまだ話す気になれない。


「……わかった。1時に学校に行く。」

機械的に言葉を並べる。


「……ありがとう。そしたらまた明日……。」


「……うん。じゃぁ……。」


それだけ言うと電話を切った。





短いやりとりだった――。


気が変わって言う気になったのか……。


昨日の電話はそんな雰囲気じゃなかった。


口には出さないが頭では分かっている。


目に映る景色が学校に近付くにつれ、心を決める――。





久しぶりに来る学校は何も変わってない。

伊東の家も変わってなくて安心したが、今は違う。


鼓動が早くなる。


中庭にいた由依を見付けると、何を言われてもいいように決心してゆっくり歩き出した。


寛美も一緒にいたが、俺を見付けると入れ違いに校舎に入る。

伊東は寛美と一緒に校舎に残った。



「……待った?」


由依は首を振って答える。

「待ってないよ。……部活の途中だし……。」


「………。」


「………。」


お互い何か言おうとしてるのは分かるが言葉が出て来ない。




少し長めの沈黙をいきなりの言葉で由依が破った。


「千晴……。私達……別れよう……。」



やっぱりね……。


覚悟はしてた。

ほんとは昨日から分かってた。


ほんの少しだけ、ほんとに少しだけ淡い期待はあったが、今の言葉で綺麗さっぱりなくなってしまった。


理由位言えばいいのに、と思いながらも分かってるんだから今さらか、とすぐに思いなおす。


由依には晃治がいる……。


そんな事は今さら聞きたくない。



ショックにはかわりないが、思ってた以上にショックは少なかった。


まぁ、昨日帰ってからさらに愚痴り倒したんだ。

あれのおかげで大分すっきりしてたのかな……。



今日はしっかり目を見てくる由依をまっすぐ見返すと答えになる言葉を返した。


「……分かった…よ。」


頭ではすっきりしてるつもりでも、言葉にするとそうもいかない。

それだけ言うのがやっとだった。



「……それとね、ほんとは昨日渡そうと思ってたんだけど……渡せなかったから……。これ、誕生日プレゼント。」


可愛い包装された小さな紙袋を手に持って言う。



誕生日、ちゃんと覚えてくれてたんだ――。


そう思うと凄い嬉しかった。


が……。

顔が少し綻んだのをすぐに引き締めると自分の気持ちを押し殺して言った。


「嬉しい……けど、もう貰えないな……。別れちゃったんだし……。」


「そうっ……だよね……。」


紙袋に目を落として申し訳なさそうな顔をしている――。


「……何だったの?」

間に耐えきれなかったのと申し訳なさからつい言葉が出る。


「……キーホルダー。悩んだけど、これが可愛いかったから……。」


「……そっか。……もったいないから由依が使いなよ。気に入ったんでしょ?」


「……うん。そうだね……そうする。」


顔を上げると笑顔を返してくれた。


大好きだった由依の笑顔――。


多分……もう二度と見る事なんてないんだろうな……。



「……そしたら、もう行くわ。……じゃあな。」


これ以上一緒にいると辛くなると思って、手を振ると背を向けて歩きだす。


その瞬間――。


「あっ……。」


由依の短い言葉に振り返る。

何か言おうとした言葉を飲み込んだ由依を見て、自然に笑顔になる――。


「バイバイ。」

それだけ言って由依の返事を待つ。


「……うん。バイバイ。」

由依の最後の顔も笑顔だった――。






『ずっと一緒にいようね。』


懐かしくもある言葉が頭の中をよぎるが、もう一緒にはいられない。


お互いを想っては進めない――。



由依も……俺も……別々の道を歩き出すしかない―――――。



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