CrossRoad
夜空に散る光の花と
日が沈むに連れ段々と人通りが多くなる。
河川敷まで来ると、暗くなった人で溢れた通りを屋台の明かりが照らし出し賑やかさをより一層際立たせている。
7時に財津と待ち合わせしてぶらぶら屋台を見てまわっていた。
「かき氷食おうぜ。」
伊東が言うと同時に注文している。
俺と財津もそれに続くと、出来るのを待ってる間に伊東が聞いてきた。
「そういや忘れてたけど、由依ちゃんとの待ち合わせ何時だ?」
シロップたっぷりのかき氷を受け取ると、ひとすくいを口に運びながら返事をする。
「橋のあたりの広場に8時。」
「あと20分位か…。そろそろ行った方がいいんじゃないか?ここからだと10分位かかるぜ。」
「そうだな……。」
そう言うと、皆かき氷をつつきながら橋に向かって歩きだした。
由依に会うのは三ヶ月ぶりだ。
久しぶりなだけにすごく嬉しい。
だが嬉しい反面、正直会うのが怖かった。
結局財津も俺と由依が別れていたと思っていたらしい。
俺の話を聞くと随分複雑な顔をしていた。
そんな事もあって、どんな顔して会おう……。何て話そう……。色々考えて緊張してくる。
久しぶりに着けた指輪を見て気持ちを落ち着かせる。
橋が近くなって来た所で一つのグループが目に飛び込んで来た。
出来ればこいつにだけは会いたくなかった――。
「千晴先輩じゃないですかっ。いつこっちに来てたんですか?」
陸上の同学年のグループの中にいた晃治がはしゃぎながら声をかけてきた。
「晃治……。一昨日の夜だよ。元気そうだな。」
なるべく穏やかにと思いながら言葉を選ぶ。
「元気ですよー。陸上の練習で実はへとへとなんですけど。千晴先輩がいないから淋しいですよ。」
嘘つけ――。
俺がいなくなって由依と仲良くやってるくせに。
晃治の言葉にいらっとしたが、顔に出ないように気をつける。
「……晃治とは遊んでたからな。陸上、頑張れよ。……じゃあ行くから。」
心の中とは裏腹に優しく言うと、晃治が何か言いかけてたが早々にその場を離れる。
道は人で溢れてざわついていたので聞こえない振りをした。
「まさか会うとはな……。」
伊東が後ろから話しかけてくる。
「花火大会だからな。みんな来るだろ。」
気にしてないように装い、軽い返事をする。
ヒュー………ドーンッ――。
花火が上がった。
夜空に大きく花開く――。
もう8時だ。
見上げると去年の花火大会の事を思い出した。
何の不安もなかったあの日は二人で手を繋ぎながら見たっけ。
今年は全然違うな……。
さっき晃治に会った事で苛々が消えない。
あんなに会いたかった由依にもうすぐ会えるはずなのに、不安な気持ちの方が大きくて潰れそうだ。
待ち合わせの場所に着いて辺りを見回す。
まだ来てないみたいだ。
………ドーンッ――。
花火の音に振りむくと懐かしい顔が俺の目に飛び込んで来た。
由依だ――。
浴衣を着て、ちょこちょこと歩いている。
隣に美依と寛美も一緒にいる。
久しぶりに見る由依は、浴衣を着ているのも手伝って凄く可愛い――。
何より俺を見つけて少し急いでいるのがいじらしかった。
「千晴……久しぶり……。」
ちょっと息を切らしながら笑顔をつくってくれた。
「ほんと……久しぶり。浴衣……可愛いいね。」
久しぶりに面と向かって話すと照れる。
そして緊張して上手く言葉が出て来ない。
「むー……浴衣だけ?」
頬を膨らませてちょっと怒ったように言う。
「あー、間違った。浴衣を着た由依が。」
慌てる訳でもなく返事を返した。
「が……?」
「可愛いい。」
「えへへっ。ありがと。」
離れていた時間で積み重なっていた氷の壁が少しずつ溶けていくようだった。
前と同じ大好きな笑顔は変わらない。
会うのが怖かったが、今こうして由依と一緒にいられる事が嬉しかった。
久しぶりな分、まだ少しぎこちない様な気もするが、夜空に上がっては弾ける花火を見ながらお互い話したい事を話す。
幸せな時間――。
楽しい反面、頭の端に残る不安な気持ちがどうしても消えない。
このままじゃ気持ち悪くて仕方ない――。
心の奥底から楽しめない――。
思いきって何度も由依に投げ掛けた言葉を口にした。
「由依……俺に何か言う事ある?」
一瞬由依の顔が曇った気がした。
「……んーん。特にないよ。」
返って来た言葉に納得出来ない。
晃治の事を由依の口から聞きたかった。
『晃治と仲が良いけど何もない。』と。
「……あるだろっ。……何か俺に隠してないか?」
少し口調がきつい気もするが気持ちが抑え切れない。
「……ないよ……。……千晴は私に言う事ないの?」
由依は少しうつむきながら俺の問いに答えを返す。
……ドーンッ……ドーンッ……ドーンッ……。
光の花が大きな音をたてて散っていく。
何でうつむくんだよ……。
何で晃治の事何も言わないんだよ……。
やっぱり付き合ってるのかよ……。
悔しさと怒りで自分が抑えられなかった――。
……ドーンッ……。
花火の音と共に俺の中で何かが弾けとんだ。
「ないよっ。……もういいっ。勝手にしろっ。」
うつむいて返事を待っていた由依に言葉を吐き捨てると、花火を見に押し寄せる人が向かう方向とは逆に歩き出す。
「えっ?待ってよ千晴っ。待って……。」
……ドーンッ……。
由依の声なんか聞こえない。
花火の音で掻き消されてるが、そう言い聞かせながら無心で歩き続けた――。
「……やっと追い付いた。待てよ千晴、何があった?」
人混みも随分ひいた所で伊東が俺の肩に手をかけて言う。
「……何もねーよ。」
今は話す気になれない。
口調もきつくなる。
「何もなかった訳ないだろ。俺達離れてはいたけどお前らが見える所にはいたんだから。……それに由依ちゃん泣いてたんだぜ。」
俺の方が泣きたい位だよ。
何も言わずにいると俺の気持ちを察してか、伊東が言葉を選びながら聞いてきた。
「……聞いたのか?……由依ちゃん……やっぱり晃治と…付き合ってたのか?」
俺は首を振った。
「付き合ってるとは……言ってない。」
うつむいたまま顔が上がらない。
「なら何で?」
「あんな態度されたら分かるよっ。向こうは俺が知ってるって知らないかもしれないけど、俺は全部知ってるんだぜ。隠してる事あるだろ?って聞いたよっ。そしたら何て言ったと思う?……ないって言ったんだぜっ。……目も合わせない。分かるだろっ?」
怒りが込み上げてきて伊東に怒鳴り散らした。
だからって突き付けられた現実が変わる訳なんてないのに……。
ただ、そうしなければ自分を保つ事が出来なかった――。
「……そう…か。」
俺の肩を掴んでいた手から力が抜けて滑り落ちる。
「とにかく、もう帰ろうや。」
伊東はそう言うと、先に立って歩き出した――。
「最悪の誕生日だな……。」
見上げた空に星が瞬いている。
ぼやけて映る星空は悔しい位綺麗だった―――――。
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