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CrossRoad
想いと現実

 電車の窓に次々流れて移り変わる景色に目をやりながら考える。




『由依……俺に何か話す事ある?』


『他はねぇ……通知表の成績がアップしてて嬉しかったよ。』


『ほんと?よかったじゃん。…………他に大事な事、何かない?』


『んー……ないよ……。……千晴は大事な話とか……ある?』


『……特にないけど、大事な話っていうか……花火大会の日待ち合わせして一緒に周ろうぜ。』


『うんっ。楽しみにしてるね。』




一昨日の電話。

伊東の電話があった後も一昨日も由依は今までと特に変わってない。

花火大会も楽しみにしてくれてる。



『毎日晃治と一緒に帰ってるのを見たから……。』


伊東の言葉が頭から消えない。


由依に直接聞くのが怖かった。

かと言って由依に内緒でめぐとか寛美に電話したりしたら後で由依に何言われるか分からない。


だから『大事な話』があるかどうかと少し遠回しな言い方で聞いてみたが、由依はないと言う。



もう何がなんだかわからなかった。



ぼーっと考えながら窓の外を見ていたはずが、いつの間にか薄暗くなりかけてた景色が真っ暗になっていた。


見ていたようでまったく見えてなかった。


由依の気持ちも同じなんだろうか。


分かっていたつもりで分かってない。



頭をくしゃくしゃに掻くと一向にまとまらない考えをやめた。



もうすぐ懐かしい玖珠に戻れる。


四ヶ月ぶり――。


「伊東が迎えに来てくれるって言ってたな。」


とにかく皆に会える喜びもある。

後ほんの少しの時間が長くて仕方がなかった―――。





「お前の部屋も変わんないな。」


着替えと、親がお世話になるんだから、と持たせたお土産でパンパンになってたバックを開けながら言う。


「そんな四ヶ月位でがらっと変わるかよ。それより母さんがご飯食べに降りて来なさいってさ。」

そう言うと部屋の扉の前で待っている。


伊東の部屋は二階の一番奥にある。


持たされたお土産を持って伊東と一階の台所に降りていった。




ご飯を食べながら感じる懐かしい雰囲気。


相変わらず元気な伊東の母親、ちょっと無口な弟、そして四ヶ月前と特に変わらない伊東――。



電車の中で考えてた不安な気持ちが少し和らぐ。


ここは変わってない――。

そう思えて安心した。



「じゃ、部屋戻ろうぜ。色々話したいしな。」


ご飯を食べ終わったのを見計らって伊東が促す。


「そうだな……。ごちそうさまでした。美味しかったです。」


食器を片付けようとしたら伊東の母親が言う。

「置いといていいわよ。遠かったから疲れたでしょ。上でゆっくりしてなさい。」


お言葉に甘えさせてもらって、伊東の部屋に戻る事にした。



部屋に着くなり伊東が切り出す。


「例の事だけど………、実際はよくわかんない。」


間を置くので何か分かったのかと期待したが、肩ががくっと落ちる。


「何だよ。何か分かったかと思ったじゃん。期待させんなよ。」


「そうは言ってもなぁ。仲良いよねって言ってるけど付き合ってるかは知らないって奴もいたし、よく一緒に帰ってるから付き合ってるでしょって言う奴もいてはっきりしないんだよ。千晴の話を聞くと晃治とは何にもないような気になるし……。」


伊東には一通りの話をしていた。

調べるとは言ってたが、伊東はあんまり女子と関わらない。


付き合うとかにあんまり興味がないみたいで、男友達とわいわい騒いでる方が楽しい感じだ。


由依とも、俺が付き合ってたからたまに口を聞く位でそこまで仲良いかと言われると微妙だと思う。

伊東は由依と仲良いめぐの事を嫌ってるし。

寛美は寛美自体があんまり男と話す方じゃないからなぁ……。


元々俺と繋がってるのだから、俺の事を由依に聞くのも不自然だって言うし……。


でも伊東なりに頑張って調べてくれた事は嬉しかった。

「まぁ、晃治は前から由依の事気に入ってたからな……。」


「じゃあ、付き合ってはないけど晃治が由依ちゃんの事好きでつきまとってるって事か。」


「それだったらそう言ったらいいだろ。でも電話じゃ晃治の話なんて全然出てこないぜ。」


「だよなぁ。言ってもいい事を言わないって事は、何か隠してるって事か?」



やっぱり隠してるのか……。

不安な気持ちが一気に湧き上がる。


「知らねっ。大事な話はないって言うし……。」


伊東も考え込んでいる。


「でも明後日の花火大会には一緒に行くんだよな?」


「ああ、楽しみにしてるって言ってくれた。」


「楽しみにしてる、かぁ。確かに千晴とは付き合ってるんだもんな。……でもこっちでは晃治と付き合ってるって噂がある……。余計分かんないよ。二股か?」


「お前……洒落になってねーよ、笑えない……。」


伊東の言葉に胸をえぐり取られたみたいだった。


「わりっ。今のは忘れろっ。なっ。」

俺の落ち込み様を見て伊東が慌ててなだめる。


「考えても分かんねーし、この話は終わりにしよーぜ。ゲームでもしようや。」


伊東がゲーム機の電源を入れながら言う。


「……そうだな。やるかっ。」


二人でテレビの前に座り直した―――。





俺は由依が好きだ――。

この想いは前と全然変わらない。


なら由依の想いはどうなんだろう。

離れてる間に変わってしまったのか……。


『晃治と付き合ってる』


そんな現実突き付けられたくない。


第一俺と由依は別れてないんだから。


『二股か?』


伊東の言葉を思い出して頭を振る。

それこそ最悪だ。


『うんっ。楽しみにしてるね。』


由依はそう言った。

不安に押し潰されそうになりながら、その言葉を信じるだけだった―――――。



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あきゅろす。
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