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CrossRoad
さよなら

学生の間の時間とは不思議なものだ。


その時は長いようでいて、過ぎてみるとなんとも短い。



転校してきてもう2年――。



今日は2年最後の終了式。


今日で通いなれたこの学校ともさよならかと思うと感慨深くなる。


校門を通り過ぎながら、入学式の日に緊張していたのがついこの前の事のように思い出される。


みんな知らない顔がいるってじろじろ見てたっけ。


思い出すと少し可笑しくなった。


そういえば平田は図々しかったなぁ。


「何にやにやしてる?」


おばちんが不意に話しかけてきた。


家が近いのもあって、時間を合わせて3学期はほとんどおばちんと明と一緒に登校していた。

もちろん最後になる今日も。


「いや、何でもないよ。」


平常を装って簡単に答えながら思い出す。


陸上もほんっとに大変だったけど、終わってみると楽しかった方が強い。

そしてこのメンバーでもう走れないと思うとやっぱり寂しい。


おばちんと俺は今年の駅伝、区間賞をとった。


今年は優勝をのがしたが、このままここにいれば来年はきっと優勝出来るはず。


転校しなきゃならない自分が歯痒くなる。



結局その転校の事を同学年には由依以外誰にも言えなかった。


俺が言うからと先生と由依に口止めしておいて、そのまま……。



部活も…陸上も…自然と次の大会の話をする。


言わないと、と思いながらも言い出せなかった。


3月にさしかかった所で、転校した後で学校に手紙でも出して言えなかった事を謝ろうと思っていた。



下駄箱で上履きに履きかえる時に誰一人通らない3年の下駄箱が目に入る。


もう卒業してしまっていない先輩達の事が頭にうかぶ。


高校生っていいよなぁ。


高校の制服を着た立花先輩が勝手に頭にうかんできた。


ちょっと大人になった先輩……可愛いんだろうなぁ。


はっと我にかえると、頭の中の映像を掻き消した。




教室に入ると由依が近寄ってくる。


さっき頭の中にうかんだ映像の事を声に出さずに謝った。


「これ、最後の交換日記。読んで書いたら約束通り、ちょうだいね。」


周りにわからないように机に置いた俺の鞄にさっと入れながら言う。


俺が手紙を書かないからと、由依が思いついて始めた交換日記もこれが7冊目。


笑った事…怒った事…色んな事が書かれた俺と由依が一緒に過ごしてきた証が全部詰まってる日記は、淋しいのが我慢出来ない時に読みかえして頑張るって言うから由依が全部持つ事になった。


ほんとは俺も淋しくなった時に頼れるものが欲しかったが、その時は電話か手紙を出すっていう約束をさせられた。


単に由依が手紙が欲しいんじゃないかと思ったが、あんまり可愛いらしく言うもんでつい了承してしまったのだ。


それに、指輪がある。


「わかってるよ。今日中にはちゃんと書いて渡すから。」


日記を奥になおし込みながら言う。


「今日でほんとに、最後だね……。」


明日には引っ越すから実質今日が会える最後の日。


よく見ると由依の目が少し赤く腫れてるみたいだった。


「二度と会えない訳じゃないんだから。……笑えよ?」


目の事には気付かない振りをして周りに聞こえないように由依に言った。


「…うんっ。」


顔をあげてぱっと笑顔をつくる。


ずっとみてきた笑顔――。


ほんとは泣きたい位つらいかもしれないのに、俺が大好きな笑顔をしてくれる由依が愛おしくて、思わず抱きしめたくなる。



それはさすがに我慢して、由依の頭にぽんっぽんっと軽く手をのせた。




先生が教室に入ってくると騒がしかった教室も静かになる。


「今から終了式だ。廊下に並べ。」


みんな先生の言葉と同時にぞろぞろと教室を出ていく―――。





終了式が終わって、みんな春休みの話をしながらぞろぞろと教室に戻っていく。


「千晴、教室には戻らずそのまま職員室に来い。」


不意に先生に呼びとめられた。


その理由もわかる。

転校の件を話してない事だろう。


はい。とだけ答え、一緒に教室に戻ろうとしていた伊東に先に戻ってるように言うと、先生の後に続いた。


無言の時間は職員室に入るまで続いたが、ドアを閉めると同時に先生が自分の席に行きながら話出した。


「今日で最後だな。……結局私は、いいと言われなかったから伝えてないが、どうするつもりだ?」


「ほんとは言いたかったんですけどね……。結局、言えませんでした。……このまま黙っておいて新学期になったら言ってもらえますか?新学期が始まる前には学校宛てに手紙を出して言えなかった事を謝りますから。」


先生は椅子に座って、少し困ったような顔で見上げてくる。


「……そうか。……まぁお前が悩んだ末に出した答えだ。これ以上は言うまい……。」


ふっと力の抜けた笑顔をすると溜息まじりに言葉を付け足した。


「正直、陸上の顧問の俺から言わせたらお前が抜けるのはそうとう痛いよ。」


「またまた。最後だからって調子いい事言いますね。」


あれだけ厳しかった先生がそんな事を言い出すからちょっと可笑しくなった。


「いや、実際千晴はよくやってたよ。生徒会に、成績も良かったしな。……結局、2年間か。……どうだった?この学校は。」


「楽しかったですよ。ほんとに……。陸上はほんっときつかったですけど。」


今までお世話になった分を精一杯の皮肉を込めて言いつつも、2年間の色んな事がどんどん溢れ出してくる。


「みんな面白い奴らばっかりで………出来れば…みんなと一緒に卒業したかった……です。」


少しうるっときたが悟られないように我慢した。


先生は今までにないくらい優しく微笑んで言う。


「お前はいい友達をもったな……。……千晴だから……か。」


最後の方の言葉は呟いただけでよく聞こえなかった。


「何ですか?」


「……いや、何でもない。」


それだけ言って腕時計にちらっと目をやると立ち上がりながら言う。


「さっ。ホームルームするぞ。行こう。」


俺の背中をポンっと叩くと、先に立って歩きだした――。





「それにしても……びっくりしたなぁ。」


まだ肌寒さの残る季節。目に映る帰り道は最後の日でもいつもと何も変わらない。


「ん?」

由依が笑顔で聞き返す。


「みんな知ってたのだよ。……まぁ、詰めがあまかったけど。」


由依が慌てて手を振って弁明する。


「あれは違うよ。先生が予定より10分も早く上がって来るから……。」



先生はちゃんと時計を見ていたはず。

みんなが提案した計画を知ってるのに……多分わざと早く教室に上がって、みんなが俺の為に考えて行動してた事を俺に見せたかったのか……。



教室に入ると俺に渡すつもりであろう色紙がわりのTシャツに、みんながメッセージを書いている真っ最中だったし、黒板にも俺へのお別れの文字を書いている所だった。



呆気にとられた。


由依の姿を捜すと、目があった途端舌をペロっと出して手を合わせるとごめんの合図をした。



『お前はいい友達をもったな……。』……か。




「……確信犯だな。」


「えっ?」

由依には聞こえなかったらしい。

そのまま話を続ける。


「みんな知ってるのに誰ひとり何も言わないんだもんなぁ。あんなに言うかどうか迷ったのにずるいよ。」


何言ってるの、みたいな顔して由依が食いついてくる。


「あれ?それはお互い様なんじゃない。凄い大事な事言わないままいなくなろうとしてたんだから。どっちかというと千晴がずるい。」


聞いてて可笑しくなってつい笑ってしまった。


「一番ずるいのは由依だけどね。」


笑いながら人差し指で由依の頬をつつきながらたしなめる。


「そうだね。……みんな、千晴だから…言わないだろうからこっちも内緒で驚かせようって事になって…。口止めされてたんだ。ごめんね。」


教室の時と同じ様にペロっと舌を出して謝る。


「ううん。ほんっと嬉しかった……。ちゃんと最後にさよならも顔見て言えたし……。由依のおかげ。ありがとな。」



「うん……。よかった……けど、最後なんだよね……。」


由依の笑顔だった顔が曇っていく。


「ほらっ、笑って。先生も言ってたろ。春は別れと出会いの季節。ただ、離れたといっても会おうと思えば必ず会えるって。」


俺の顔を見上げると、微笑んでくれた。


「そうだよね。……ねぇ千晴。持ってる?」


いつの間につけてたのか、左手をかざしながら薬指につけた指輪を見せながら言う。


「ちゃんと持ってるよ。」


ポケットから出して由依と同じに薬指にはめてみせた。



二人きりで誓いをたてた証の指輪。


お互いの気持ちが一緒で、確かに繋がってる気がする。



満面の笑顔で由依が俺をじっと見返してくる。

可愛い――。


離したくない――。離れたくない――。


何も口に出来ずに、ただ由依を引き寄せた。


由依も身体を預けてそれに従う。


ずっとお互いの目を見つめたまま――。


顔が近ずくと自然とゆっくり目が閉じていき、やわらかい唇の感触が伝わってくる。




目を開けると、由依がしっかり俺の身体を抱いてくる。


「由依……。大好きだよ。」


「私も……。大好き。」


強く…強く抱きしめた―――。





俺達なら大丈夫。

そう思う事に何の不安もなかったかと言えば嘘だろう。



離れても会いたいと思えば必ず会える――。


人の想いを信じる事で保たれる繋がりが、どれだけのものかを知ってるようで知らない――。


中学3年に上がる前の春――。


人は時間と共に成長し変わっていく。


想い、気持ちも―――――。



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あきゅろす。
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