CrossRoad
想う事
「千晴くんってさ、優しいよね……。」
唐突にめぐが切り出す。
「何で。普通じゃん。」
「そんな事ないと思うけどなぁ。」
「そう?」
素っ気ない返事だけ返して目の前にいる小さい子供達の相手をしてあげる。
めぐの家は保育園をやっている。
バザーがあるからと誘われて由依と来たのだが、めぐも手伝っていたのでなんとなく手伝っていた。
「相変わらず由依と仲良いよねぇ。」
「まあね。」
向こうで出し物の手伝いをしている由依を眺めながら言う。
「この前は別れそうとかって騒いでたのが嘘みたいだね。」
子供達が『遊んで遊んで』と群がってくるので高い高いをしてあげたり、ぐるぐる身体をまわしてあげたりしていた。
「だよねぇ。」
小さい子供達はすごい元気で永遠に遊びが続きそうな気がしてくる。
さすがに疲れたので休憩と言って、子供達から離れた。
調度腰かけられそうな所があったので座ってまだはしゃいでいる子供達を見ていたらめぐが飲み物を持ってきてくれた。
「せっかくの休みだったのに、ごめんね。」
「いーよ。こっちも楽しんでんだから。気にすんな。」
持ってきた飲み物がスポーツドリンクだったので渇いていた喉をいっきに潤してくれた。
「妬けちゃうなぁ。由依はいい彼氏をもって幸せだね。」
「幸せかぁ。…そうだったら、嬉しいね。」
まだ由依以外には転校する事を言っていない。
離れていくのに、幸せなんだろうか……。
ふっと思ったが、由依の言ってくれた言葉が今でも俺の中で支えてくれている――。
待ちきれなくなった子供達が休んでいた所まで来て手を引っ張って騒ぎたてる。
「もう休んだでしょー。遊ぼうよー。」
「もう?早いよ。もう少し。」
「ええー。早くー。」
「お兄ちゃん疲れてるからもう少し待ってあげてね。」
めぐが優しく子供達をなだめている。
「お姉ちゃん達って付き合ってるの?」
めぐのそばにいた子供達の女の子の一人が聞いた。
何処でこんな小さい子供がそんな言葉を知るんだろう。
びっくりする言葉はその後も聞こえた。
「そうだよー。付き合ってるの。」
めぐがめちゃくちゃな事を言っている。
「違う違う。付き合ってないよ。友達だからね。」
小さい女の子に向かって弁明した。
「友達かぁ。つまんない。」
つまんないって……。
こっちはびっくりだよ。
「めぐー。子供に変な事教えてんじゃねーよ。」
「冗談だって。冗談……。」
一瞬顔が曇ったような気がしたが、呼びかけられる声に振り返る。
「おしるこ食べないかってー。向こうに用意してるからおいでって。」
由依が子供達の間を避けながら歩いて来ていた。
「ちょうど腹減ってたんだぁ。おしるこ食いに行こうぜ。」
まだ手を引っ張っていた子供達から解放される思いと腹減ってる所におしるこが食べられると思うとでついつい頬が緩む。
「みんなも行こうねー。」
めぐが子供達に言うと一斉に走りだした。
「ほんっと元気だなぁ。」
溜息まじりに口から出た言葉をめぐが拾って答える。
「そうだねー。」
「ほらっ。千晴もめぐも行こう。おしるこなくなっちゃうかもよ。」
今度は由依が俺の手を引っ張る。
可笑しくなった。
「おっきな子供だな。」
「何が?」
怪訝そうな顔して聞いてくる。
「んにゃ、何でもない。ほらっ、行こうぜ。めぐも早く。」
楽しい毎日――。
人の気持ちなんてわからない。
ずっと続けばいいと思いながらも続かない事を知っている俺達は信じて前だけを向いて歩いていた―――――。
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