CrossRoad
部活
不安と期待――半々で胸を高鳴らせながら始まった新しい場所での初日からもう一週間が過ぎていた。
最初はとにかく囲まれての質問攻め。
自己紹介されながらだったけど、多すぎて名前なんて覚えられない。
まぁ名前は少しずつ覚えるとして、みんな珍しいのは最初だけだから、と思い、されるがままの状態だった。
一週間もたつとさすがに落ち着いてくる。
給食に出された牛乳を最後に流しこんでから平田が口を開いた。
「なぁ、永里は部活どうすんだ。決めたのか。」
平田はいつも唐突だ。そして食べるのが早い。食べ終わった食器を片付けながらしゃべりかけてきた。
「うちの学校って全員何かの部活に入らないといけないだろ。俺はバレー部。決めてないなら一緒に入ろうぜ。」
口に残ってるご飯を飲み込んで間を置かずに答えた。
「わりーな、決めてるんだ。中学入ったらバスケ部入ろうと思って。」
「なんだ。残念。」
「永里君もバスケ部入るの。俺もバスケット始めようと思ってるんだ。よかった。」
前の席に座ってた中原が相変わらずの高い声を出しながら振り返った。
「じゃあ中原君とは一緒だね。部活でもよろしく。」
声は変に高いし中原はクラスの中でも特に小さい。大丈夫なのかとふと思ったが、口ははさまない。
給食を食べ終わったヒョロッと細い奴が近づいてきながら言う。
「2人バスケ部はいるんだ。俺も俺もっ。中原はいいとして、仲良くやってこうぜ。」
早口で調子のいい感じ。
伊東渉(いとうわたる)――。
中原には手厳しい。
というか、みんなの様子から中原がイジられやすいみたいだ。
「よかった。バスケ部結構いるんだね。伊東君もよろしく。」
「あ゛ー、やめてやめて何か気持ち悪いから、その【君】ってとって。伊東でいいよ。俺もつけないから。」
手をブンブン振りながら顔を歪めて言う。
俺も他人行儀になるのは嫌いだ。
そう言ってくれるのはありがたいし、何となく見えない壁が崩れて距離が縮まる気がして嬉しい。
「わかったよ。伊東って呼ぶ。」
日に日に自分の居場所が広がっていく気がする。
ここにいていいんだ――。
そう思うと自然と顔が緩んでいく。
「そうそう。かたっくるしいのは無しにしようぜ。」
平田が、俺が食べ終わってるのを見計らって後ろから腕をまわして首をしめながら言う。
苦しい――。
「痛いって、平田。力強いんだから加減しろって。」
「あっ、すまんすまん。」
笑いながら悪びれる事ない。
思った事は言う。行動にうつせる。あっけらかんとした性格…。
悩みなんてなさそうだ。
少し羨ましい。
「お前ら3人バスケ部か。なんか多そうだなバスケするやつ。」
「篠原(しのはら)もするって言ってたからな。隣のクラスも合わせたらある程度は集まりそう。」
伊東は楽しそうだ。バスケが好きなのか…。
俺もバスケが面白くて好きだから入る。
もちろん守れなかった前に交わした約束も少しはあるかもしれない。
でもその友達も今はこの場所にはいない……。
――いつの間にか始まっていた昼休みも終わりに近付き段々とクラスに人が戻ってくる。
「今日の帰り、ちょっとバスケ部のぞいて帰ろうぜ。」
伊東の言葉に反射的に答える。
「いいね。見て帰ろう。」
声が弾む。
キーンコーンカーンコーン――。
チャイムと同時にみんな散らばっていく。
「そしたら帰り、約束なっ。」
言葉だけ残して伊東も席に戻っていった。
机から教科書を出しながらぼーっと考えていた。
日に日に毎日が楽しくなってきた。
新しい友達とこれからを過ごしていく。
別れは辛かったけど、ちゃんと前を向いて歩いていけそうだった。
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