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CrossRoad
繰り返す運命

年が明けても寒さは相変わらず続く。

帰る足元には雪がちらつき、地面に落ちては溶けていく様は儚い。




「ただいまー。」

「お帰り。寒いやろ。先にお風呂入る?」

母親が台所から言ってくる。


「そーする。」

部屋に行ってカバンをどさっとおろすと、居間を通り過ぎそのまま風呂に入る――。



風呂から上がると父親が帰って来ていた。

テーブルにはすでに俺のご飯が並べられていたので、そのまま座って食べる。


「千晴…。お前の高校の事なんだがな、転勤が重なると編入試験とか受けなくちゃならんだろ。地元に戻ればその心配もなくなる。だから、2年が終わったら転校だ。」


――頭をカナヅチで殴られたような衝撃が走る。


転校――。


最後に言われた言葉を頭の中で繰り返す。


何て言った?しかも2年が終わったら?――。


一時沈黙が食卓を覆う。


「早…くない?いつも3年ごとじゃん。なんで2年が終わったらなの?」


なるべく平静を装ったつもりだが動揺で言葉がうわずる。


「簡単に言うと高校は住んでる所で受けられる所がある程度決まってる。もちろん手続きで色々受けられるが…。その手続きをしないでいいのが高校入学の1年前からその学区内に住んでればいい訳だ。転勤のペースもその時々で違う。お前の在学中に転勤になったとしてもお前達は残って高校に通えばいい。そうすれば編入試験も受けなくてすむだろ。だからだ。」


父親の言う事はもっともだ。確かにそれが1番いいんだろう。だが頭では理解出来ても理屈じゃない。


せっかく仲良くなった友達もいる――。

部活もずっとやってきた奴らと3年の最後の大会に一緒に出たい――。

陸上だって3年になった俺らが引っ張って優勝したい――。



何より由依がいる――。



「俺だけ…残れたり…しない……よね。」


頭では全てわかってる。残れない事くらい。今までの転校の時もずっと言葉にせずに飲みこんで来た言葉。

諦めてはいるのが言葉にも伝わって、力無く口から吐き出された。


「気持ちはわかるが……。」


父親の言葉を遮って言う。

「わかってるよ。……じゃあこの3学期が終わったら転校かぁ。新しいとこもいい奴いたらいいなぁ…。」


精一杯の強がりだった――。


母親もそこにいる。前の転校の時には母親にはどうしても残りたいって言って困らせてしまった。


長男の俺がしっかりしないと……。



「すまんな……。」


父親の短い言葉に我慢してたものがあふれ出しそうになった。


「ごちそうさま。宿題やんなきゃ。」



急いで自分の部屋に引っ込んだ―――。





冬の空は何処か淋しげだ――。


自分の気持ちが空虚になっているせいもあるだろう。



俺は幸せだった――。


ほんとにそうなのか…。

これなら最初から何もなく過ごせていた方がずっと幸せだったんじゃないのか――。


あの日の夜から楽しいと思えていた時間は過去に変わってしまった。


「何て言うんだよ……。」


引っ越してきてもうすぐ2年になる。


色んな事があって、その映像が頭の中を次々によぎる。


悩んでいる間も時間はどんどん過ぎていく。


自分の中だけで解決しようにも出来ない歯痒さ。


あれから4日も経つ――。


まだ誰にも言い出せずにいた。


由依にも――。




でも……言わなきゃ。


俺の口から。

まず由依に。


他の連中にはそれから考えよう。




やっと決心した頃にはもう学校に着いていた。



下駄箱で上履きに履きかえるとそのまま職員室に向かう。



担任の先生の顔を見つけると真っ直ぐ前まで歩いていった。


「先生、俺の事…もう聞いてますか?」


俺の顔がひきつっていたのか、先生はゆっくり言葉を選ぶように返事をした。


「親御さんの事情の事か…?。昨日連絡があってな……。聞いている。千晴は色々やっていたからな……残念だ……。」


「そうですか…。先生にお願いがあるんですけど……。」


「ん…?お願い?」


意を決して俺は早口にまくし立てた。


「転校する事、まだ誰にも言わないで下さい。」


「……そうか。それはかまわないが。……いいのか?」


先生は思ってた以上に簡単に納得してくれた。


「はい。俺がいいと言うまでは黙っていてもらえますか?」


俺の思いが通じたのかなんてわかんない。ただ先生は優しく笑って言葉をたした。


「わかった。いいと言うまでな。…もう予鈴がなるぞ。教室に戻れ。」


「ありがとうございます。失礼します。」


頭をぐっとさげると、職員室を急いででた―――――。



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