CrossRoad
抱えた不安
想いがある事で色々悩まされ傷つき、想われる事で色々応えられず傷つける――。
想いを思う事を知った――。
これでもう何日も由依と口きいていない。
クラスも少ない学校だからすぐに二人の様子がおかしいのにみんな気付く。
「千晴、何考えてるの?」
生徒会室を出た時に立花先輩が聞く。
ふいに聞かれたから少し戸惑った。
「えっ……。…いや別に何も考えてないですよ。」
「うそ。由依ちゃんの事でしょ?まだ仲直り出来てないの?噂、広がってるよ。『別れたんじゃないか?』って。」
ああ、それで……まぁ、いいけど……。
「そうなんだ……。知らなかったな……。」
「あれっ。余裕だね。あっ、もしかしてもう仲直りしたんだ?」
「いや、まだですよ…。」
「わかんないなぁ…。そしたらなんでそんなにボーっとしてるの?」
あれから立花先輩は変わらず接してくれる。
でも…よく由依の話出来るな……。
「さぁ…。俺が聞きたいですね……。」
――うそだ。
実際は由依の事考えてた。
立花先輩鋭いよ――。
3年の教室は3階にある。階段の踊り場で挨拶をかわすと教室に戻った―――。
授業中もついボーっとする。
先輩、さっき別れたって噂があるって言ってたな……。
あれから話す事はないが、ふとした瞬間に目が合う。
でも話さない――。
これってどういう事なんだよ……。
由依は……仲直りするつもりないのかな?
訳わかんねー。
ひとりで考えても結局この答えにたどり着く――。
「千晴くん。ちょっとこっち来て。」
振り返るとめぐが窓ごしに呼んでる。
「何?」
「何じゃないでしょ。由依とずっとこのままのつもりなの?全然話さないで…まだ怒ってるの?仲直りするつもりないの?」
いきなりまくしたてる。
「怒ってねーよ。仲直りも出来るなら早くしてーし……。」
めぐが少し驚いた顔をする。
「ならなんで話さないのよ?」
「俺から話せねーよ。頭冷やして考えろって言ったんだぜ。いつ答えが出るのかわかるの由依だけだろ。」
言いながら溜息が出た。
「そーんな風に思ってたんだ……。なんか別れたっていう噂も結構広がってるみたいだし、千晴くん由依の事嫌いになったんじゃないかって思ったよ。」
「またそれかよ。嫌いになんかなる訳ねーじゃん。」
「そう…。ならいーよ。ありがと。」
そそくさと自分の教室に帰っていく。
「あっ、ちょっ……。」
なんっだそりゃ……。
自分の言いたい事言ったら終わりかよ。
俺の話も聞けよ。
由依が今どう思ってるのか聞きたかったのに……。
グラウンドに歩いていっていたらなつかしく感じる声が聞こえた。
「千晴…。」
振り返ると由依がすぐ後ろに歩いて来ていた。
「今日…部活終わったら話したいんだけど……時間作れる…?」
随分久しぶりのような気がする。
ちょっと、緊張するな…。
「…いいよ。そしたら校門の所で待ち合わせな。」
「うんっ。それじゃまた後で…。」
先に走っていく。
少しぎこちない感じがしたが、笑ってた――。
久しぶりに見た…な。
校門に行くと、由依がもう来ていた。
「待った?遅くなってごめんな。」
「ううん、大丈夫だよ。」
「それじゃ、帰ろうぜ。」
歩き出しながら言った。
「えっ……。話……。」
由依はその場に残っている。
「もう遅いから送るし。話しながら帰ろうぜ。……嫌ならこの場で聞くけど。」
「嫌な訳ないっ。一緒に帰りたいよ……。」
嬉しかった――。
思わず笑顔になる。
「じゃ、行こうぜ。」
由依がパタパタと走り寄ってくる。
「うんっ。」
「それで……話は…?」
一時歩いても由依が何も言わないから聞いた。
ほんとは横で何度も話を切り出そうとしてるのが分かるからきっかけを与えたかった。
「……あのね。ずっと考えたの。千晴に言われた事…。でもね、ほんとはすぐ分かってたんだ……。悪いのは私だって。」
「すぐ…?」
「うん。でも…あの時はなんで千晴は私の気持ちわかってくれないのかって思ってた。家に帰って考えて、学校でも考えて……。落ち着いたら、ただ私がすごいわがまま言ってたなってすぐ分かったの。」
「なんで話してくれなかったの?」
バっと顔を上げて言ってきた。
「千晴だって話してくれなかったからっ。……まだ怒ってるんじゃないかと思ったら怖くて…話し出せなかったんだよ。」
「そっか…。」
「話もしないし、一緒にも帰ってくれなくなって……すっごい怒らせたって思ったら、悲しくなって……。立花先輩とは話してるのに……、私とは話さないんだって思ったら余計に辛くなっちゃって……」
「それはっ……。」
俺が言おうとするのをせいして続ける。
「いっぱい泣いたんだよ。千晴、もう私の事嫌いになったかと思って……。」
「そんな事ある訳ないだろっ。俺はっ……。」
俺の口を由依が押さえる。
「最後まで聞いて。」
手をどけない。しょうがないから口を押さえられたまま頷く。
「……私達が別れたっていう噂まで流れちゃって…。もしかしたら話しないまま終わっちゃうんじゃないかとも思ったよ。そしたら………千晴、1年生に告白されたってほんと?」
俺の顔を覗き込んできた。
「……うん…。」
ほんとはそれだけじゃないんだけど……。
「めぐが言ってたの……。それ聞いたら、千晴をとられちゃうって思って……そんなの絶対嫌って思った……。でも、なんて言って仲直りしたらいいかももうわかんなくって……。ずっと、ずっと考えてたよ。……でも全然行動に移せなかった。」
自分の足元の少し先をずっと見ながら、言葉を選ぶようにして話していく。
「そしたら千晴はもう怒ってないって聞いて……勇気を出して、やっと話したいって言えたの。」
それでか……めぐのやつ……。
「今日、送っていくって言ってくれた時、すっごい嬉しかったんだよ。今もほんとはすごいドキドキしてる。」
胸を押さえて一呼吸おく。
「私はね、千晴がすごい好き。」
真っ直ぐな目――。
唇を少し噛んで、多分俺が何て答えるか不安なんだろう。
胸にある手が少し震えている気がする――。
「俺も、大好きなんだぜ。……誰かが言ってたよ、世界で1番って。」
「それ、千晴。」
笑顔――。
久しぶりに見た気がする。
俺だけに笑う顔。
可愛いな――。
由依の目を見る。
吸い込まれるように近付いて来る目。
お互いが半歩近付き、軽く、優しくキスをした――。
「仲直りのしるし、かな。」
「うんっ。嬉しいっ。」
そう答える由依の目は濡れて光っている。
「私、すっごい不安だったんだ。」
「俺もずっと不安だったよ。」
「ううん。ちょっと違うと思う。私は自信がなかったの……。」
「…自信?」
「千晴はすっごいモテるんだよ。私よ……。」
「モテないよ。」
由依の話を遮る。
「モテてるのっ。千晴が知らないだけっ。後輩のコ達にファンみたいのがいるんだから…。他にも……。」
「はいはい。」
「もうっ……。それで、私よりいい人いっぱいいて、そっちにいっちゃうんじゃないかってずっと不安だったの。私の何処がいいのか、好きでいてくれるのか自信がなかったの……。」
「そんな事気にしてたのか?」
「だって……。自信なんてないもん。だからヤキモチも妬いて…こんな事になっちゃった……。」
「今は…?……自信ついた?」
「少し…ね。千晴が好きでいてくれたから。」
「もっと持てよ。俺は由依の笑った顔めっちゃ好きだぜ。ていうか全部。……それに由依こそモテてるんだから。」
「モテない。」
間髪入れずに答えを返してくる。
吹き出してしまった。
「同じ事言ってるぞ。」
「そんな事ないもん。……でもよかった。千晴も少しは妬いたりしてくれてるって分かったから……。」
「そういう事。俺は由依が好きなんだから……自信持てよ。」
少し照れてるのか、頭を軽くかいて、少し下を向く。
「えへへっ。私も好き。」
顔をあげて言うと、ピョンと俺に近寄ってそのまま腕を組む。
もう由依の家に着く。
「まだ一緒にいたいな……。」
「俺もいたいけど、もう遅いから心配するぞ。また明日いっぱい話そうぜ。」
「……うん。わかった。それじゃ……、んっ。」
キスをせがむ由依の唇にゆっくり重ねる。
お互いの身体を抱きよせ、唇、身体、全体の、少し遠ざかってた感触を確かめ合うようにゆっくり、そして激しくキスをした―――――。
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